交通事故の慰謝料の相場と増額方法【2023年最新】
この記事では、交通事故における慰謝料の相場、いくらもらえたのか、計算方法と増額方法をわかりやすく解説致します。交通事…[続きを読む]
交通事故の被害者となった場合、賠償金の金額を決めるためには、まず加害者側の任意保険会社と示談交渉を行うことになります。
この記事では、人身事故、後遺障害事故、死亡事故、物損事故のそれぞれの事故について、示談交渉をスタートさせるべき時期と示談成立までにかかる期間について説明します。
目次
示談交渉は、賠償金の金額を決めるための話合いです。お金を受け取る被害者側の要求額が明確にならなければ、話合いを開始することはできません。
事故でケガをした場合は、ケガが治って治療が終了すれば、治療費、通院交通費、付添費、休業損害などの金額がはっきりします。通院の終了により入通院慰謝料を算定する基礎となる入通院期間も確定します。
したがって、治療が終了した時点以降が、示談交渉をスタートさせる時期となります。
加害者側の任意保険会社が示談代行をする場合は、保険会社から「計算書」が送られてくるでしょう。賠償金の各項目の金額と、その算定方法の簡単な説明、そして合計額から治療費等の既払金を控除した金額が記載されています。
それは保険会社が希望する賠償金の金額であり、示談交渉の最初のたたき台です。
この計算書の金額は、正当な賠償額である弁護士基準(裁判所基準)で算定した金額よりも必ず低い金額ですから、この提案に対して、弁護士基準の金額を示して反論することが、実質的な示談交渉のスタートです。
人身事故(傷害)で示談交渉がスタートしてから示談が成立するまで、どの程度の期間がかかるのか、被害者なら誰でも気になるでしょう。
しかし、その質問に対しては「ケースバイケース」としか答えようがありません。
交通事故の示談交渉に限らず、金銭の交渉は、多く要求する受取り側と少なく提案する支払い側が、どの金額で妥結するかの問題です。
両者の希望金額に差が少なければ、早く妥結できるでしょうし、差が大きければ、妥結できないか、妥結できても時間がかかるでしょう。
差が大きくても、早く現金が欲しい被害者が、保険会社の提案を争わなければ、すぐに示談は成立し、1~2週間で賠償金が振り込まれます。
金額的な差がわずかでも、被害者が1%でも過失割合を認めたくないと主張すれば、示談まで長くかかるかも知れません。
人身事故(傷害)では、多くの場合、争いの種になるのは入通院慰謝料と過失割合です。入通院慰謝料は保険会社が自賠責基準で計算した低い金額(※)を提示することが多いので争いとなります。
※自賠責基準の入通院慰謝料は、「入通院実日数の2倍」か「入通院期間」のどちらかすくない日数を基準に1日4200円で計算します。
過失割合は、事故の態様について、被害者と加害者の言い分が異なる場合、保険会社は加害者の言い分に基づいた過失割合を主張しますから争いになります。
ただし、どのような争いの場合でも、人身事故(傷害)の損害賠償の消滅時効は、事故から3年です(自賠法19条、民法724条)。
したがって、どんなに長引いても、この期間内に示談が成立しないならば、調停申立てや訴訟提起によって時効を止めて解決を図るしかありません。
ケガの治療をしても、これ以上は症状の改善が期待できなくなった状態が症状固定であり、この時点以降に発生する損害は、原則として、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益だけが賠償の対象となります。
弁護士基準による後遺障害慰謝料は自賠責保険の後遺障害等級に応じて金額が定められています。また後遺障害逸失利益も各等級ごとに決められた労働能力喪失率を用いて算定します。
そこで、自賠責保険の後遺障害等級認定の結果が判明し、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の金額を算定できるようになった時点が、後遺障害事故の示談交渉をスタートさせるときとなります。
もっとも、自賠責保険の審査結果に対し、「こんなに低い等級のはずがない」、「非該当とされてしまった」など、納得がゆかないときは、自賠責保険に対する異議申し立てや、自賠責保険共済紛争処理機構に対する紛争処理申請で争うことになりますから、その結果をまってから示談交渉を開始することになるでしょう。
なお後遺障害等級認定の結果に不満があり、上のような不服申立て方法で争っている場合、その手続の間に、加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効期間が過ぎてしまう危険があります。
後遺障害による損害賠償請求権の消滅時効期間は、症状固定の時から3年間です。等級認定手続は自賠責保険の負担額を算定するための査定に過ぎませんから、異議申立てなどのために等級認定に時間がかかったからといって、等級が決まったときから時効期間が始まるわけではないからです(※)。
したがって、等級認定を争うなどの場合は時効期間に注意をし、消滅時効期間が近づいてきたら、たとえ等級認定の結論が出ていなくとも、加害者を提訴するなどして時効を中断させる必要があります。
なお、自賠責保険については、「時効中断申請書」を提出することで時効を中断させることが可能ですが、自賠責保険に対する請求権の時効を中断させても、その効力は、加害者や任意保険会社に対する請求権には及ばないことに注意しましょう(民法148条)。
示談成立までの期間がわからないことは人身事故(傷害)と同じです。
後遺障害事故の場合は、次のような争点で交渉が長引きます。
いずれも後遺障害に関する専門的知識なしには保険会社と交渉することは困難です。適正な金額の示談を成立させるには、弁護士に依頼するべきでしょう。
また、後遺障害事故による損害賠償請求権の消滅時効は、症状固定から3年間です。特に後遺障害が重い場合、症状固定後も通院やリハビリを続けるケースも多く、あっという間に3年を経過してしまう危険があるので、格別の注意を要します。
死亡事故は、法律の理屈の上では、被害者が亡くなった時点で、死亡慰謝料、逸失利益などのすべての損害が発生したと評価されます。
しかし、実際には遺体の搬送費用や葬儀代など、死亡後に発生する損害もありますし、死亡の時点で損害の金額が算定できているはずもありません。
したがって現実には、死亡後、様々な損害項目の金額がはっきりしてからでないと交渉を始められないでしょう。
また遺族の感情なども考慮すれば、49日の法要などを済ませて、気持ちが落ち着いてから交渉をスタートすることが一般的です。
死亡事故の示談交渉を始めるにあたり、大切なことは、相続人の代表者を決めることと、慰謝料を請求する近親者の範囲を決めておくことです。
相続人が複数いるケースでは、各人の法定相続分に応じた割合の賠償金を請求する権利がありますから、各人がバラバラに加害者や任意保険会社に賠償請求をすることも法的には可能です。
しかし、それでは加害者側も対応することが事実上、困難となり、示談交渉がいたずらに長引く原因となってしまいます。
したがって、できる限り、相続人代表者を決めるか、全員が弁護士に交渉を委任して、窓口を一本化するべきでしょう。
また死亡事故では、被害者の父母、配偶者、子どもには、近親者としての固有の慰謝料請求権が認められますが(民法711条)、これら以外にも家族同様の暮らしをしていた親族など、これらの近親者と実質的に同視できる身分関係にあり、被害者の死亡により重大な精神的苦痛を受けた者にも、固有の慰謝料請求権が認められます(※)。
法的には、固有の慰謝料請求権を有する者は、個別にこれを行使できるわけですが、それではやはり加害者側の対応が困難となり、交渉が長期化してしまいます。
できるだけ、固有の慰謝料請求を行う者もはっきりさせたうえ、相続人代表者か弁護士に交渉を委ねることが適当です。
死亡事故は、慰謝料、逸失利益の金額が高額となることが通常で、1億円をこえる賠償額となることは珍しくありません。
金額が大きいだけに、保険会社も必死で抵抗します。また過失割合が1%違うだけで100万円、10%違えば1000万円の違いとなってきますから、事故態様をめぐる争いも非常に厳しくなります。示談成立まで時間がかかるのも無理はありません。
また死亡事故で特有な問題に、相続争いが起こってしまい、保険会社が賠償金を支払う先が確定しないまま時間が過ぎてしまうというケースがあります。
誰が賠償金を取得する権利のある相続人か、法的に確定できないまま賠償金を支払ってしまうと保険会社は二重払いのリスクを負うことになるので、示談には応じませんから、訴訟以外に解決の方法はありません。
物損事故では、修理前に、修理費用の見積書を入手したときが事実上の交渉スタートです。
実際には、まだ修理を実施していなくても、法的には、事故のときに車両の損壊という「損害」は発生しており、見積書によって、その「損害」が金銭的に評価されると考えるからです。
ただし、物損事故では、多くの場合、保険会社が委託したアジャスターが修理工場を訪れ、事故車両の損壊箇所を確認し、事故によって生じた損壊か否か、合理的な修理方法と相当な修理金額について調査します。
保険会社は、その調査報告に基づいて賠償内容を検討しますので、急いで修理を進めてしまい、アジャスターによる調査の機会を奪ってしまうと、保険会社から支払を拒絶されるなどして、示談交渉が難航する危険があります。
したがって、アジャスターによる調査を実施させたうえで示談交渉を開始することが賢明です。
また車両が全損となり買替え差額を請求する場合や評価損を請求する場合は、事故時点の当該車両の価格などを調べて、請求する金額を特定してから示談交渉を始める必要があります。
これらの価格は、「オートガイド自動車価格月報」(オートガイド社)や「シルバーブック」(一般財団法人日本自動車査定協会)などで調べることができます。
物損事故では、次のような争いで示談交渉が長引く場合があります。
保険会社が委託したアジャスターが被害車両を調査し、妥当と認める修理範囲・方法・費用について、修理工場と協議し、合意する場合があり、これを「修理費協定」と呼びます。
このような協定がなされても、被害者がそれに従わなくてはならない理由はありませんが、少なくとも修理費については、協定が結ばれた場合は問題とならないことが多いと言われており(※)、示談交渉の期間を短くすることに役立つと言えるでしょう。
※「交通関係訴訟の実務」(森富義明裁判官他編著・商事法務)430頁
示談交渉の期間がどれくらいかかるかは、事案によって異なるとしか言えませんが、被害者本人が示談交渉を行うよりも、弁護士に依頼して代理人として示談交渉を担当してもらった方が、示談交渉にかかる期間は短くできることは確実です。
示談交渉の期間は、その事案における争いの有無、その争い内容によって異なります。
ご自分の示談交渉の期間がどの程度となるのか、おおよその目安が知りたいときは、是非、交通事故に強い弁護士に御相談されることをお勧めします。