従業員が犯した交通事故に対する会社の責任とは?
従業員が犯した交通事故で、会社に賠償責任が生じたときの従業員の賠償責任との関係や会社が支払った賠償金を事故を起こした…[続きを読む]
交通事故で示談交渉を始めるにあたり、準備しておくべき書類には何があるでしょうか。
この記事では、人身事故、後遺障害事故、死亡事故、物損事故に分けて、交通事故の示談交渉の準備方法と必要書類について説明致します。
交通事故の示談の準備をしている方は参考にしてください。
目次
被害者側 | 加害者側 | どのような場合か | |
---|---|---|---|
① | 保険会社 | 保険会社 | (a)被害者にも過失割合があるとき |
② | 保険会社 | 加害者本人 | 次の(a)かつ(b)の場合 (a)被害者にも過失割合があるとき (b)加害者が任意保険に未加入のとき等 |
③ | 被害者本人 | 保険会社 | 次の(c)または(d)の場合 (c)被害者に過失がないとき (d)被害者が任意保険に未加入のとき等 |
④ | 被害者本人 | 加害者本人 | 次の(b)かつ(c)の場合または(b)かつ(d)の場合 (b)加害者が任意保険に未加入のとき等 (c)被害者に過失がないとき (d)被害者が任意保険に未加入のとき等 |
尚、上記以外にも、示談交渉の相手方が加害者(運転者)ではない例として、加害車両の所有者などに運行供用者責任(自賠法3条)を問うケースや、加害者の使用者に使用者責任(民法715条)を問うケースなどがあります。さらに、それらの当事者と直接交渉する場合と、それらの当事者が契約している保険会社と交渉する場合に分かれます。
事前の準備がもっとも大変なのは、上の④被害者本人と加害者本人が交渉しなくてはならない場合です。
被害者は、加害者に賠償請求するべき損害の金額を明らかにできる書類を全て自力で集めなくてはなりません。
さらに、被害者にも過失割合がある場合は、加害者の損害に関する資料を加害者に要求して、その内容を精査し、相手が主張する損害額の適正を判断しなくてはなりません。
事前準備も交渉も、すべて自分だけでやらなくてはならないのです。
これに対して、上の①②③の場合、つまりどちら側にせよ保険会社が介入する場合は、事前準備の労力ははるかに少なくて済みます。
被害者の保険会社が示談代行してくれる場合(①②)は、被害者の同意を得て保険会社が必要な資料を集め、加害者側に渡してくれます。
他方、被害者本人が加害者の保険会社と交渉する場合(③)でも、通常、保険会社から直接に病院へ治療費が支払われる「一括払い」サービスが行われ、保険会社は被害者の同意を得て診療記録などを入手しています。
物損についても、保険会社が委託したアジャスター(※)が修理工場とやりとりを行い、修理必要範囲、修理方法、修理費相当額について協議し合意すること(これを「修理費協定」と言います)が通常なので、見積書など基本的資料は保険会社が入手済みです。
※アジャスターとは、保険会社から委託を受けて物損事故の損害額などの調査を行う調査員で、日本損害保険協会の認定試験に合格し登録した資格者です。
ただし、①②③のケースでも交渉の前にすべての書類を取りそろえて、自分で目を通しましょう。
保険会社が介入する場合でも、その金額での示談に応じるか否かを決めるのは被害者本人ですから、すべての資料を読んで賠償額の正誤を確認しなくてはなりません。
自分の保険会社が代行する①②のケースでは、その保険会社が集めた資料と加害者側から交付された資料のコピーを郵送するよう依頼しましょう。自分が契約している会社ですから、当然にコピーを送ってくれます。
また、被害者本人が加害者の保険会社と交渉する場合(③)でも、保険会社に資料のコピーを要求すれば、問題なく郵送してくれます。遠慮は不要です。
以下では、示談交渉を行うにあたり、事前に必要な書類のうち主なものについて説明します。
被害者と加害者が直接に交渉するケース(④)においては、すべてを自分で集めなくてはなりませんので、下記の記事をお読みいただき、漏れがないようチェックしましょう。
それ以外のケース(①②③)でも、被害者本人が集めるべき資料もありますし、事案によっては保険会社から自身で取り寄せて提出してほしいと要請される場合もあります(どの資料を保険会社側で集めてくれるのかについては、特にルールがあるわけではありませんので、その会社次第です)。
また、最終的に保険会社から郵送されたコピー類が足りているかどうか点検する必要がありますから、やはり下記の記事に目を通していただき、お役立てください。
なお、この記事は、示談交渉のための書類についての解説ですので、自賠責保険の被害者請求に必要な書類については解説しておりません。自賠責保険に必要な書類につきましては、別の記事をご参照ください。
では、被害の種類別に解説してゆきます。
事故証明書は事故の事実を簡明に示す基本的書類として入手しておくべきです。事故を警察に届けてあれば、各都道府県の自動車安全運転センターから発行されます。
保険会社が介入する場合は、保険会社が取り寄せていますので、そのコピーをもらうこともできます。
事故による受傷の事実を証明するものとして必要です。事故後は時間をおかずに受診して、その時点での診断書を発行してもらうべきです。
警察に人身事故として届出する場合の必要書類でもありますし、事故から間があいてからの診断書では示談交渉においてケガと事故の因果関係を否定されるリスクがあるからです。
治療内容とその費用が記録されたものです。治療費、入通院慰謝料の算定に必要です。
被害者の収入を明らかにするものです。休業損害の算定に必要です。当然ですが、保険会社の介入の有無にかかわらず、これは被害者が取得して提出するものです。提出の際はコピーを残しましょう。
休業した日数(遅刻や早退含め)を明らかにするものです。
各保険会社が用意している定型の書式が休業損害証明書でサラリーマンの場合などはこちらを利用します。休業損害証明書は勤務先が加害者側に対して休業損害の内容を証明する書類ですから、被害者が勤務先に依頼して発行してもらい、相手方に渡すものです。もちろんコピーを残しましょう。
自営業などの場合は、休業日数を記入した休業証明書を被害者が作成して相手に渡すことになります。
通院交通費や雑貨費(寝具、衣類、洗面具、タオルなど)の金額を明らかにするため必要です。これも被害者が取得して提出するものです。提出の際はコピーを残しましょう。
傷害事故で必要な(a)~(f)に加えて下記の書類が必要です。
後遺障害の有無とその内容を明らかにするために医師に記載・発行してもらうものです。自賠責保険に被害者請求する際には、後遺障害診断書を提出することで、後遺障害等級の審査が行われることになります。
自賠責保険により認定された後遺障害の等級を明らかにするものです。自賠責保険からの後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益は、認定された等級を基準として算定されます。また示談交渉においても、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益を算定するための目安となります(もちろん、その等級認定が妥当と認めるか否かは別問題ですが)。
加害者側の任意保険会社が一括対応をしているケースでは、等級認定は加害者の任意保険会社が行い、等級認定票も自賠責保険から任意保険会社を経由して被害者に送付されます。
後遺障害で車イス、松葉杖や、義手、義足など装身具が不可欠となった場合は、その費用も請求できますので領収書を提出します。
将来にわたって装身具を買い換える必要があるときなどは、将来費用の見積書も提出します。
自宅のバリアフリー改装費やエレベター設置費、車両の改造費などを支出した場合や将来の支出が必要な場合は、その領収書、見積書も提出します。
なお、傷害事故での「(d)給与明細書・源泉徴収票・確定申告書の控え」は、後遺障害事故では、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を算定するための資料にもなることに留意しましょう。
死亡の事実とその原因を明らかにするものです。検案書は死因・死期などを医学的に確認した結果を記載した文書、死亡診断書は患者を生前から診療していた医師が死亡を確認して作成する診断書です。
いずれも病院に書式が備えられており、医師から発行してもらいます。
死亡事故の示談交渉は、被害者の相続人と加害者側との間で行われます。また死亡した本人の慰謝料以外にも、親族固有の慰謝料を請求することができます。
このため被害者の相続人であること、親族であることを明らかとする資料として、戸籍謄本類が必要となります。具体的には、死亡した本人の出生から死亡時点までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)及び相続人の戸籍謄本です。これらは被害者側で取り寄せる必要があります。
なお、相続人が複数いる場合、法的には各相続人がその法定相続分の割合による賠償金請求権を取得するので、各人が加害者側に賠償を求めて示談交渉を行うことも可能です。
しかし、それでは加害者側も対応が事実上困難となり、スムーズな交渉は不可能でしょう。この場合は、相続人間で協議して相続人代表者を決め、他の相続人は代表者に示談交渉の代理人を任せる委任状を発行し、加害者側にもコピーを交付して交渉することが無難です。
葬儀費用、墓石費用なども領収書を提出します。僧侶へのお布施など領収書を発行しない費用については正確に記録した明細一覧表を作成して提出します。
上の(j)~(l)に加えて、次のものが必要です。
事故から死亡まで期間がある場合は、その間の損害については傷害事故と同内容の賠償請求が可能です。
したがって、傷害事故の必要書類である(a)交通事故証明書、(b)診断書、(c)診療報酬明細書、(d)給与明細書・源泉徴収票・確定申告書の控え、(e)休業損害証明書・休業証明書、(f)交通費や日用雑貨品などの領収書が同様に必要となります。
この場合、(d)給与明細書・源泉徴収票・確定申告書の控えが、死亡慰謝料及び死亡逸失利益を算定する資料となります。
即死の場合は、(a)交通事故証明書、(d)給与明細書・源泉徴収票・確定申告書の控え、が必要となります。
次に「物損だけの事故」と「人身事故のうち物損の部分」の示談交渉で必要な書類について主なものを説明します。
必須ではありませんが、端的に事故状況を理解できる資料として準備しておくことは常識でしょう。
修理工場から入手します。なお前述のとおり保険会社が介入する場合は、アジャスターとの修理費協定の前提として各書類は保険会社が入手しています。
全損の場合は車両の時価を明らかにする資料を用意する必要があります。通常、使われるのは以下の資料です。
なお、全損のときは、車両買替えにかかる諸費用(税金、登録等手数料、リサイクル関連費用、廃車費用等)についても資料をそろえて請求を忘れないようにしましょう。
保険会社が介入するケースでは、示談交渉を開始するにあたっては、まず事故に関するすべての資料のコピーを郵送してもらいましょう。
届いた資料をチェックして、足りないものがないかどうかを確認しましょう。
当事者同士で示談交渉をするケースでは、次のようにチェックしてください。
賠償金はすべて金額、すなわち数字の問題ですので、1円単位まで、いかなる名目なのかをハッキリとさせてください。
「諸費用」などという項目や「概算」などという損害額は存在しませんから(最終的な段階で丸めた数字で妥協するという場合は格別ですが)、そのような内容不明な請求をするべきではありませんし、受け入れるべきでもありません。
各内訳(項目)の数字が1円単位で明らかになったら、次はその金額が正しいかどうかを裏付けている証拠資料はどれかを探してください。何も証拠資料がない金額を請求すること、受け入れることは厳禁です。
なお慰謝料のように領収書などで裏付けられない金額については、弁護士基準(裁判所基準)に基づいて算定します。以下のような資料が参考となります。
交通事故で受ける被害は、事故状況や被害者の事情次第で千差万別であり、事案が異なれば違う被害も生じてきます。
損害を裏付ける証拠資料も、被害内容ごとに異なる場合があり、相手に疑念を生じさせない証拠を拾い出さなくてはなりません。被害者にとって、慣れない示談交渉の準備をするだけでも、相当な負担です。
そこで示談交渉それ自体を、交通事故を得意分野とする弁護士に依頼することを考えるべきです。
示談交渉においては、過失割合のように、専門的な法的知識も不可欠となります。
弁護士は、被害者の代理人として、事故内容の調査から始まり、必要な書類の収集・内容のチェック、弁護士基準に基づく適正な賠償額の算定、相手方との交渉、妥結したときの示談書の作成、加害者に保険会社がつかないケースでの不払いリスクにまで対処し、交通事故問題のすべての処理を任せることができます。
負担の重い示談交渉とその準備は、専門家の弁護士にまかせ、本人は本来の仕事、生活、治療に集中されることをお勧めします。