慰謝料などの示談交渉時のリスクと実例|ぼったくられたくない!

示談計算

交通事故の慰謝料の交渉には弁護士を依頼した方が良いと言われます。

その理由は、専門知識をもった弁護士に任せず、自分の判断で安易に保険会社の言い分を信用してしまうと、本来受け取ることができるはずの賠償金を得ることができず、大きな損害を被り、ぼったくりじゃないのそれ、ってなことになるからです。

この記事では、弁護士を入れない示談交渉のリスクと保険会社言いなり大損害の具体例について解説します。

慰謝料など示談交渉時の「計算書」の注意点

示談交渉の第一歩は、任意保険会社から被害者に対して、「計算書」とか「ご提案」などと題する損害賠償計算書が送られてくるところから始まります。

そこには、丁寧なお見舞いの言葉と同時に、概ね次のような趣旨の挨拶状が添えられています。

「○○様に対する賠償金(示談金)について、当社の基準でできる限りの金額をお支払いいたします。つきましては、同封した書類に、ご署名ご捺印のうえ、当社まで御返送ください。すぐに示談金をお支払い致します」。

この場合の重要なポイントは、保険会社の計算書には、実際に被害者が受け取るべき賠償金よりも低い金額が記載されていることがあるということです。

そのまま計算書を信じて示談に応じてしまうと、公正な賠償金を受け取る機会を逃すことになり、被害者は大きな損失を被る可能性があります。

保険会社からの計算書|被害者Aさんのケース

実例として、保険会社の提案する計算書を見ながら考えてみましょう。

被害者Aさんの被害状況

  • 被害者Aさん(男性・40歳・会社員)は、信号機のある横断歩道で、歩行者向けの信号が青信号であったことを確認して、横断を開始しましたが、途中で黄色信号に変わってしまいました。
  • あわてて急ごうとしたところ、脇見運転で赤信号を見落として横から進行してきた加害車両が衝突
  • 右足を骨折したうえ、顔面に傷を負ってしまいました。

被害の内容は次のとおりです。

  • 症状:右足骨折、顔面挫創
  • 入通期間:3ヶ月
  • 通院期間:3ヶ月(通院週2回)
  • その他機関での施術:整体院に週1回通院施術
  • 休業期間:6ヶ月
  • 後遺障害等級:12級14号「外貌に醜状を残すもの」

保険会社からの計算書

さて、この事故の示談交渉が開始されて、保険会社からAさんへ送られた計算書は次のとおりです(計算書の数字は、わかりやすいようにあえて単純な数字にしてあります)。

A様 令和元年9月1日
○○損害保険株式会社
治療費 ¥1,500,000
入院付添費 ¥57,400 日額4100円×14日間
=5万7400円
入院雑費 ¥99,000 日額1100円×入院90日間
=9万9000円
通院付添費 ¥49,200 日額2050円×通院24回
=4万9200円
通院交通費 ¥19,200 往復800円×24回
=1万9200円
休業損害 ¥1,800,000 日額2万円×休業日数90日
=180万円
入通院慰謝料 ¥756,000 日額4200円×180日
=75万6000円
文書料 ¥5,000 診断書実費
傷害分の小計(A) ¥4,285,800
逸失利益
後遺障害慰謝料逸失利益なしを考慮して加算 ¥1,100,000
後遺障害分の小計(B) ¥1,100,000
損害合計( C ) ¥5,385,800 (A)+(B)
過失相殺額(D) ¥-538,580
既払い金(E) ¥-1,700,000
控除額小計(F) ¥-2,238,580 (D)+(E)
お支払額 (C)-(F) ¥3,147,220

 

被害者Aさんの実例|計算書はどうおかしい?

では、Aさんが持参した計算書が、どのようにおかしいか、相談を受けたB弁護士の目から見てみましょう。

治療費について

計算書の治療費の欄には、150万円と記載されています。

しかし、B弁護士が計算書を見ると、書類の最後のほうに「既払金170万円」と記載されていることを見つけました。

つまり、この既払い金170万円が「病院」の治療費150万円と「整体院」の治療費20万円の合計だということに気付きました。

保険会社が、既払金として170万円を賠償額から控除しながら、治療費には150万円しか計上していないということは、整体院の治療費20万円は損害として認めませんと主張しているのと同じです。

Aさんの整体院への通院は、主治医にもすすめられて通院したものです。

そのため、必要かつ相当な治療費として法的に損害と認められるべきものです。

したがって、治療費には170万円を計上したうえで、同額の既払い金170万円を控除するのが適正な計算です。

入院付添費について

Aさんは右足骨折で手術後ベッドから動けなかったため、入院当初の2週間だけ、妻に付添いをしてもらいました。

計算書には、入院付添費として「日額4100円×14日間=5万7400円」と記載してあります。

しかし、日額4100円はあくまで自賠責基準の金額です。

弁護士基準では、近親者の付添人は日額6500円です。「日額6500円 × 14日間 = 9万1000円が適正な金額です。

ただし、請求するためには弁護士に依頼をする必要があります。

Aさんへの計算書上の金額 5万7400円
Aさんの適正な入院付添費の額 9万1000円

入院雑費について

入院雑費とは、入院中に通常支出されることが予想される寝具、衣類、洗面具、食器等購入費、栄養剤、電話代、切手代、新聞雑誌代、有料テレビ代などの諸雑費です。

交通事故損害賠償の実務では、これら細かい品目の支出を個別に判断することは煩雑なので、基準が定額化されています。

計算書では「日額1100円×入院90日間=9万9000円」と記載してあります。

しかし、この日額1100円も自賠責基準です。

弁護士基準では日額1500円のため「日額1500円 × 入院90日間 = 13万5000円が適正な金額です。

Aさんへの計算書上の金額 9万9000円
Aさんの適正な入院雑費の額 13万5000円

通院付添費について

Aさんは退院後の通院で、一人では松葉杖で上手く歩くことができなかったため、病院と整体院への通院のたびに妻に付き添ってもらいました。

計算書では、「日額2050円×通院24回=4万9200円」と記載されています。しかし、この日額2050円も自賠責基準です。

弁護士基準では日額3300円であり、前述のように医師に勧められた整体院への付添も含めるべきですから、「日額3300円 × 通院36回 = 11万8800円が適正な金額です。

Aさんへの計算書上の金額 4万9200円
Aさんの適正な通院付添費の額 11万8800円

通院交通費について

計算書には、通院交通費として、「往復800円×24回=1万9200円」と記載されています。これはバスと電車という公共交通機関を乗り継いで病院へ通院する交通費です。

しかし、Aさんの自宅は郊外でバスの本数も少なく、日常の移動には自家用車が事実上必須であるうえ、松葉杖によるバス・電車での移動は現実的ではありませんでしたから、妻に自家用車を運転してもらい通院していたのです。

このように必要性、相当性があれば、自家用車での通院も損害として認められ、具体的にはガソリン代(走行距離1キロあたり150円で算定)、駐車場代、高速料金が損害として認められます。

Aさんの自宅から病院、整体院までは一般道を片道10キロ走行することになります。病医院、整体院の駐車場代は無料でした。

したがって、「片道10キロ × 2 × 150円 × 通院36回 = 10万8000円」が適正な金額です。

Aさんへの計算書上の金額 1万9200円
Aさんの適正な通院交通費の額 10万8000円

休業損害について

Aさんの休業日数は、6ヶ月(ここでは計算を単純にするため180日とします)、事故前3ヶ月の収入(各種控除前)は180万円で、日額にすると、180万円÷90日=日額2万円です。

そこで計算書には、休業損害として、「日額2万円×休業日数90日=180万円」と記載されています。

しかし、実はAさんは休業中に定期昇給しており、事故前は月額60万円だった給与が、事故の1ヶ月後から月額66万円となるはずだったのです。

このような場合は、当然に昇給時からは、増額された金額を基礎収入としなくてはなりません。

したがって、「日額2万円 × 休業日数30日 = 60万円」と「日額2万2千円 × 休業日数60日 = 132万円」の合計192万円が適正な金額です。

Aさんへの計算書上の金額 180万円
Aさんの適正な休業損害の額 192万円

入通院慰謝料について

Aさんは、入院3ヶ月、通院3ヶ月で、計算書には、「日額4200円×180日=75万6000円」と記載されています。

しかし、この計算は自賠責基準によるものです。

自賠責基準では、入通院慰謝料は「入通院期間」と「入通院実日数の2倍」を比較して少ない日数となる方に日額4200円をかけるのです。

弁護士基準では、入院3ヶ月、通院3ヶ月の場合は188万円であり、こちらが適正な金額と言えるでしょう。

Aさんへの計算書上の金額 75万6000円
Aさんの適正な入通院慰謝料の額 188万円

後遺障害逸失利益について

Aさんは、顔面に傷痕が残ってしまったため、後遺障害12級14号「外貌に醜状を残すもの」が認定されていますが、計算書では、逸失利益が空欄となってしまっています。

実は、通常、保険会社は、外貌醜状が認定されても、モデルや俳優などの外見が重視される特殊な職業でない限り、労働能力に影響はないから、逸失利益は認めないと主張してきます。

案の条、計算書の後遺障害慰謝料の欄をみると、「逸失利益なしを考慮して加算」とあたかも、被害者に温情をかけたように錯覚させる説明が記載されています。

たしかにAさんは、事務職の会社員であり、俳優のような特殊な仕事ではありません。

しかし、裁判例では、特殊な職業ではなくとも、外貌醜状が対人関係の構築や円滑なコミュニケーションを阻害してしまい、将来的な昇格昇給や転職などに不利益を及ぼす可能性は否定できないとして、一定の労働能力喪失が認められているのです。

12級の労働能力喪失率は14%です。そこで、適正な逸失利益は、次のとおりとなります。

基礎収入66万円 × 12ヶ月 × 14% × 14.643(※)= 約1623万6158円

※40歳から67歳まで就労可能年数27年間のライプニッツ係数

Aさんへの計算書上の金額 0
Aさんの適正な後遺障害逸失利益の額 約1623万6158円

後遺障害慰謝料について

計算書では、後遺障害慰謝料を110万円とし、先に指摘したように「逸失利益なしを考慮して加算」と説明してあります。

しかし、12級の後遺障害慰謝料は自賠責基準が93万円ですから、計算書は自賠責基準に17万円加算しただけの金額で、「逸失利益なしを考慮して加算」したというわりには、あまりにも少ない金額です。

なぜなら、適正な後遺障害慰謝料は、12級の弁護士基準290万円だからです。

Aさんへの計算書上の金額 110万円
Aさんの適正な後遺障害慰謝料額 290万円

過失相殺について

計算書の過失相殺の欄では損害額の合計から1割を差し引いてあります。つまり被害者Aさんにも1割の過失があるという前提です。

Aさんは「保険会社の担当者に、私が横断歩道を渡り始めたときは青信号だったけれど、途中で黄色信号になってしまったので、私にも1割の過失があると言われました。」と言うのです。

Aさんによると、担当者は、その理由として、次の「道路交通法施行令2条1項」を見せ、Aさんがこれに違反しているから、1割の過失はやむを得ませんと説明したというのです。

道路交通法2条1項 黄色の灯火

歩行者は、道路の横断を始めてはならず、また、道路を横断している歩行者は、すみやかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならない

B弁護士は「とんでもない!」と憤慨します、

実務のベースとなっている、裁判所が発表する過失相殺基準が掲載された本(※)をAさんに見せ、担当者が指摘した条文は、担当者の説明とは逆に、黄色信号であっても歩行者に横断を続ける自由を保障した規定であって、Aさんには全く過失はないとするのが裁判所の基準であることを説明しました。

これを聞いて、さすがに温和な性格のAさんも、「では、これまで保険会社から聞かされていた話や、この計算書はデタラメではないですか!」と顔色を変えてしまうことでしょう。

※「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5判」東京地裁民事交通訴訟研究会編66頁

保険会社の言いなりで被害者は大きな損をする

  • 保険会社の計算書の金額は314万7220円
  • 弁護士基準で計算した正しい金額は2339万3958円

この差額は2024万6738円にものぼります。これが「保険会社に言いなりでいかに損をするか?」の答えなのです。

このような巨額な差が出ることに、一般の方はとても驚かれるでしょう。

しかし、交通事故の損害賠償の世界では、この程度のことは全く珍しいことではないのです。

さっそく、AさんはB弁護士に依頼して、弁護士基準に基づいて計算しなおした「請求書」を作成して、保険会社に送付してもらうことしました。

B弁護士作成の「請求書」

○○損害保険株式会社 御中 令和元年9月10日
A代理人弁護士B
治療費 ¥1,700,000
入院付添費 ¥91,000 日額6500円×14日間=9万1000円
入院雑費 ¥135,000 日額1500円×入院90日間=13万5000円
通院付添費 ¥118,800 日額3300円×通院36回=11万8800円
通院交通費 ¥108,000 片道10キロ×2×150円×通院36回=10万8000円
休業損害 ¥1,920,000 日額2万円×休業日数30日=60万円
日額2万2千円×休業日数60日=132万円
入通院慰謝料 ¥1,880,000
文書料 ¥5,000 診断書実費
傷害分の小計(A) ¥5,957,800
逸失利益 ¥16,236,158 66万円×12ヶ月×14%×14.643=1623万6158円
後遺障害慰謝料 ¥2,900,000
後遺障害分の小計(B) ¥19,136,158
損害合計( C ) ¥25,093,958 (A)+(B)
過失相殺額(D) ¥0
既受領金(F) ¥-1,700,000  ○○病院、××整体院
控除額小計(F) ¥-1,700,000 (D)+(F)
請求額 (C)-(F) ¥23,393,958

仕事としている保険会社であることを考えれば、被害者側も専門家である弁護士に依頼して交渉を進めてもらうことがベストです。

よくある質問

上の例では問題を単純化するために、計算書の各項目のすべてが自賠責基準で計算されている極端な例を設定しました。

実際に、自賠責基準で計算してくる場合もあれば、その会社独自の内部基準で計算してくる場合もあります。内部基準といってもほとんどの場合、自賠責基準に毛が生えたような金額に過ぎません。

では、このように保険会社の計算書が不当な内容の場合、どのような手段をとれば良いでしょうか?

保険会社の計算書が不当な内容の場合どうする?

示談交渉は、あくまでも金額を決めるための話合いであり、お互いの主張のぶつけ合いです。

保険会社の計算書は、保険会社の希望に過ぎませんから、被害者側は弁護士基準に基づいた計算書を作成して、それを「請求書」として保険会社に送ればよいのです。

弁護士基準で計算して請求するには?

ただ、弁護士基準で計算するといっても、交通事故問題の知識がない一般の被害者の方には難しいことです。

交渉相手は、交通事故示談交渉に慣れた保険会社です。弁護士に依頼して交渉してもらうのがよいでしょう。

依頼した弁護士に、弁護士基準で計算してもらい、請求するようにしましょう。

まとめ

交通事故の示談交渉で、ぼったくりであると感じてしまうことや、保険会社の計算書のままに示談をしてしまうと、如何に損をするかについて、慰謝料の交渉などの実例について、ご説明しました。

保険会社から計算書が送られてきたら、まずは、交通事故を得意とする弁護士に相談されることをお勧めします。

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弁護士相談Cafe編集部
本記事は交通事故弁護士カフェを運営するエファタ株式会社の編集部が執筆・監修を行いました。
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