後遺障害とは?交通事故の後遺症が残った場合に知っておきたいこと【2023年版】
この記事では、後遺障害とは何か、後遺障害認定されたらどうなるか、メリットやデメリット、認定手続きの流れや注意点は何か…[続きを読む]
後遺障害12級は、12級13号でむちうち症やヘルニアといった「神経症状」が認定される等級でもあります。また12級6号・12級7号などの関節の機能に障害を残す症状などもあります。
自賠責保険の後遺障害はどの等級に認定されるかで、慰謝料や逸失利益など損害賠償の金額相場が大きく変化します。
今回は、神経症状などで後遺障害12級に認定されるにはどうすればいいか、認定は難しいのか、また後遺障害認定されたら慰謝料の計算や示談金の金額相場はいくらくらいか?行政サービスなどから障害者手帳は交付されるのかなどを解説します。
なお、後遺障害全般の基礎知識を習得したい方は、下記ページを併せてご参照ください。
目次
自賠責の後遺障害12級が認められる主な症状は、以下の通りです。むちうち症状の場合の12級13号や、交通事故で鎖骨骨折した場合・交通事故で半月板損傷をした場合などの12級6号・12級7号、外貌醜状の12級14号などがあります。
等級 | 症状 |
---|---|
12級1号 | 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの |
12級2号 | 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
12級3号 | 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
12級4号 | 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの |
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
12級9号 | 1手の小指を失ったもの |
12級10号 | 1手の人差し指、中指又は薬指の用を廃した場合 |
12級11号 | 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの |
12級12号 | 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
12級14号 | 外貌に醜状を残すもの |
誤解されがちですが、後遺障害認定を受けたからといって行政サービスで「障害者等級」に即認定されるわけではありません。
なぜなら、後遺障害は「自動車保険損害賠償保障法施行令」に規定されたもので、一方、身体障害者手帳は「身体障害者福祉法」に規定されたもので、根拠法令が異なるからです。
身体障害は以下5つの障害について7つの等級に振り分けています。
身体障害は、上記のとおり、軽めの神経症状より比較的重い症状のみ該当します。
つまり、後遺障害12級では行政サービスで障害者手帳の交付を通常受けることは難しいと言えます。
また、手帳が交付されることでの割引サービスや補助金などの支援を受けることはできません。
しかし、だからといって泣き寝入りというわけではなく、下記で解説するとおり「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」の相場を計算して、賠償金などを受けることになります。
後遺障害慰謝料については、①自賠責保険の基準、②任意保険基準、③弁護士基準の金額を計算する3つの基準があります。
自賠責基準から順に高額となっており、下表からお分かりいただける通り、自賠責基準と弁護士の後遺障害慰謝料は3倍以上の差があります。
後遺障害12級の後遺障害慰謝料の金額相場 | ||
---|---|---|
自賠責基準 | 任意保険基準(※) | 弁護士基準 |
94万円 | 100万円 | 290万円 |
※任意保険基準は、一般に公開されていません。そのため、旧任意保険の統一支払基準を記載。
「自賠責基準」は自賠責保険による基準で、3つの中では最低の補償額です。
「任意保険基準」は、任意保険会社が独自に定めた損害賠償額の基準です。
これに対し「弁護士基準」は、裁判所も採用する基準ですから、これが唯一の正しい基準となります(そのため裁判基準とも呼ばれます)。
自賠責基準や任意保険基準の金額で満足してしまえば、本来受け取ることができたはずの賠償金を失う結果となります。
正しい金額の後遺障害慰謝料を受け取るためには、弁護士基準により慰謝料を計算する必要があります。
後遺障害慰謝料以外に、後遺障害等級12級の認定を受けた場合に請求することができるものとして、逸失利益があります。
後遺障害逸失利益は、後遺障害がなければ得られたであろう将来の収入です。
逸失利益の金額は、少し難しいですが、次の計算式によって求めることができます。
「就労可能年数に応じたライプニッツ係数」は、国土交通省のサイトで確認可能です。
また労働能力喪失率は失われた労働能力の割合を後遺障害の程度に応じて基準化したものです。
参考サイト:国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
そこで次の事例で実際に逸失利益の金額の計算をしてみましょう。
後遺障害12級の労働能力喪失率は、14%です。
事例
被害者の年齢・性別:62歳・男性
被害者の年収:400万円
被害者の後遺障害等級:12級
400万円(年収)×14%(労働能力喪失率)× 9.253(年齢62歳のライプニッツ係数※)=518万1680円
※ 2020年3月31日以前に発生した事故については、8.306で計算
後遺障害12級に認定されることによって被害者は、約520万円の逸失利益を受け取ることができます。
対して、この被害者が同一条件で認定が14級だとしたら、逸失利益は185万600円です(※)。
適正な等級認定が重要な理由がお分かりいただけるでしょう。
※ 400万円(年収)×5%(14級の労働能力喪失率)× 9.253(年齢62歳のライプニッツ係数)=1,850,600円
では、後遺障害12級と認定された場合、実際にいくらくらの慰謝料を受け取ることができるのでしょうか?上記の計算方法で対応しようとすると難しいといえます。
ご自分の事故のケースでの後遺障害12級の慰謝料相場を調べたい方は、慰謝料計算機で計算してみてください。
通院期間や後遺障害等級を入れるだけで、より詳しく自分の慰謝料相場を弁護士基準で計算することができます。
被害者の事情にも大きく左右されますが、後遺障害12級でどれくらいの後遺障害慰謝料が認められるのか、慰謝料の事例として裁判例を2つピックアップします。主に顔面醜状と神経症状のケースを取り上げてみます。
裁判例1
浦和地裁平成6年7月15日判決
被害者は女子中学生(事故時14歳、症状固定時18歳)。
事故により前額部などに3カ所の線状瘢痕が残り、自賠責保険により顔面醜状(後遺障害12級)の後遺障害と認定されました。
裁判所は次の各事実を指摘しました。
こうして裁判所は、入通院慰謝料100万円に加えて、後遺障害慰謝料550万円を認めました。
参考文献:交通事故民事裁判例集27巻4号936頁
裁判例2
千葉地裁平成20年6月23日判決
被害者は主婦(症状固定時58歳)。
大腿骨頸部骨折の傷害を負い、右股関節の痛みと可動域制限による後遺障害を主張しました。
しかし、自賠責保険は、末梢神経障害(局部に頑固な神経症状を残すもの)で後遺障害12級を認定しただけで、股関節の可動域制限は基準に達していないとして後遺障害と認めませんでした。
これに対して、裁判所は次のとおり判断しました。
これらの事実から、入通院慰謝料280万円に加えて、後遺障害慰謝料550万円を認めました
参考文献:交通事故民事裁判例集41巻3号740頁
どちらの裁判例も判決で後遺障害慰謝料550万円を認めています。550万円という額は、後遺障害12級の弁護士基準の相場290万円を大きく超え、10級の相場額です。
本来、後遺障害慰謝料の額は、事故態様などによって判断されるため、事故ごとに異なるものですが、裁判では、被害者の年齢、性別、収入や生活状況まで勘案して判断するので相場を超えて適正な後遺障害慰謝料が認められやすいのです。
それゆえに、被害者の事情に応じた増額理由を裏付ける事実をすべて拾い上げ、主張・交渉することがカギになり、そのためにも、交通事故に強い弁護士の役割が重要となります。特に神経症状でお悩みの方の弁護士相談が多いのでぜひ一度相談をしてみましょう。
では、難しいと言われる後遺障害12級の認定を受けるためにはどうすればいいのでしょうか?
後遺障害12級の認定を受けるためのポイント3つを以下にまとめました。
適正な後遺障害等級の認定を受けるためには、被害者請求を利用することをお勧めします。
相手側任意保険会社に等級認定手続きを任せてしまう事前認定と比べると、手続の透明性が保たれ、被害者にとって納得しやすい等級が認定される可能性が高くなるからです。
被害者請求であれば、申請の際に提出する書類をすべて被害者側で揃えなければならないため、すべての書類について自身でコントロールすることができます。事前認定では、提出する書類も相手側保険会社に任せてしまうので、どんな資料を提出したのか知る術がありません。
事前認定で期待した等級の認定を受けることができればいいのですが、期待した等級に認定されなかった場合、その理由はハッキリとはわからないままです。
しかし、被害者請求はその分手続きが煩雑になり難しいというデメリットもあります。「申請が煩わしい」そんな時は、弁護士に依頼するといいでしょう。代理申請をしてもらえば、被害者の負担は格段に減少するはずです。
また、後遺障害等級認定に際して適切な後遺障害診断書を医師に作成してもらうことも重要です。
後遺障害12級では、いろいろな検査や、医学的見地からの意見や診断書作成なども必要になります。もし、主治医が後遺障害診断書の作成に協力的でない、後遺障害について詳しくなさそうだという場合、難しそうな場合、交通事故に詳しい弁護士に相談してみるのも一つの方法です。
交通事故に詳しい弁護士であれば、後遺障害診断書作成にあたってのアドバイスや作成後のチェックもお願いすることができます。
頚椎捻挫(むちうち症)・腰椎捻挫・ヘルニアなど「神経症状」で後遺障害12級の認定を受けるためには、他覚所見といわれる客観的な資料が必要です。
自賠責保険で神経症状の後遺障害12級の認定を受けるためは、基本的にレントゲンやMRIなどの画像検査が必要となってきますが、画像で原因を特定することが難しいことも事実です。そんな時は、弁護士に相談してみましょう。異議申し立てや裁判までを見据えた提案をしてくれることでしょう。
特に裁判では、画像所見は重要性ではありますが、不可欠のものではなく、神経学的検査も含めた医学的所見を総合的に思料したうえで後遺障害についての判断がなされます。
次に、慰謝料を増額するためにはどんなことが必要なのでしょうか?
後遺障害12級の慰謝料増額のためのポイントは以下の3つです。
慰謝料を増額するためには、弁護士基準で交渉することが効果的です。
後遺障害慰謝料の項目でも説明しましたが、弁護士基準を採用することができれば、他の基準を用いた場合よりも大幅に慰謝料の金額が上がるからです。しかし、実際に被害者が自分で示談交渉をする際に、弁護士基準を持ち出しても誠実に対応しない保険会社が多く存在することも事実です。
慰謝料を弁護士基準で交渉するには、弁護士に依頼するのが一番の近道です。
もし、期待していた等級の認定を受けられなかったとしても諦める必要はありません。まず自賠責保険に対する異議申し立てという不服申し立ての手続きが認められています。
異議申し立てによって等級が上昇する可能性は決して高くはありませんが、費用もかからず、申立てについて回数制限はありません。なぜ希望の等級が認定されなかったのか原因をしっかりと分析し、新たな医学的証拠を収集して十分な準備をしてから異議申し立てをしましょう。
さらに、自賠責保険共済紛争処理機構というADR(裁判外紛争処理機関)に不服審査を請求することもできます。
また、冒頭でご紹介したように、最終的には、裁判によって慰謝料の増額を期待することができます。
後遺障害認定以外に、示談で保険会社が提示する慰謝料額に納得がいかない場合にも、交渉を弁護士に依頼することがベストな選択です。
示談交渉では、保険会社は、認定された等級に応じて、自社独自の慰謝料額基準を機械的に提示するだけで、被害者の個別の事情をすすんで考慮してくれることは、まずありません。
しかし、弁護士は、事故と被害者、加害者をめぐる様々な事情のうち、慰謝料の増額理由となる事実を漏れなく拾い上げて主張・交渉します。さらに過去の膨大な裁判例と比較して、特に増額が考慮されてしかるべき本件の特殊性を指摘し、保険会社から慰謝料を増額する回答を引き出します。
示談交渉でまとまらなければ、弁護士が訴訟を提起し、増額の理由となる事実の存在を、証拠をもって立証し、裁判所に増額を認めさせます。
慰謝料の増額を勝ち取るためには、このような緻密な活動が必要です。そのためには、知識と経験が豊富で、交通事故の被害者救済に熱意のある弁護士を選ぶことこそが大切です。
自分の事故のケースで、後遺障害12級の慰謝料相場、逸失利益相場を調べたい方もいらっしゃることでしょう。
下記の慰謝料自動計算機で、必要なデータを入力すると、より詳しくご自身の慰謝料相場を弁護士基準で計算することができます。
後遺障害12級の場合、後遺障害慰謝料の相場も自賠責基準で94万円、弁護士・裁判基準で290万円です。
後遺障害等級12級が認定されたら、「後遺症部分の損害」を相手方に請求できます。
後遺障害等級12級の自賠責基準で94万円であり、被害者請求により先取りできます。 そして、不足している損害額を相手方に請求することになります。
今回は、後遺障害12級に認定される症状や後遺障害慰謝料の相場、難しい後遺障害12級をとるにはどうすればいいか、行政サービスや障害者手帳、について解説しました。
後遺障害12級が認定される症状はさまざまです。むちうちなどの神経症状の場合でも、他覚症状があれば12級が認定されます。
交通事故で12級に該当する後遺症が残ったら、確実に後遺障害等級の認定を受けることが大切です。
そのためにも、被害者請求手続きを利用して難しい後遺障害の認定の確率を上げ、交通事故に詳しい弁護士に示談交渉を依頼して弁護士基準を適用して計算してもらうことなどが必要です。
今、交通事故の後遺障害の問題で悩んでいたり、示談交渉の方法で迷っていたりする方は、早いうちに一度、交通事故問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。