家族の「お見舞い交通費」は加害者に損害賠償請求できるのか?
事故で救急搬送されたと知れば、ともかくも搬送先に駆けつけます。近親者のお見舞いや駆けつけのための「交通費」は、加害者…[続きを読む]
交通事故の怪我で病院に通う期間が長くなれば、その交通費の負担も重くなります。もちろん、通院交通費は、損害賠償として加害者側へ請求することができます。
ただ、通院のための交通費であれば、どんなものでも請求できるわけではありません。
また、加害者側の任意保険会社に請求するには、「通院交通費明細書」という書類に記入して提出することが必要です。
この記事では、請求できる通院交通費の内容と、通院交通費明細書の記載、いつ提出するか、嘘バレるか、自家用車やガソリン代はどうなるかなど、方法などについて解説します。
目次
通院交通費は、交通事故による怪我の治療目的で病院に通うために被害者が支出した移動費用です。ここには入院や転院のための交通費も含まれます。自家用車なども含まれますし、あとで明細書として出します。
公共交通機関(電車、バス)を利用した費用は、その実費が賠償されます。
これらの運賃は調べればすぐにわかりますから、電車賃、バス代の領収書を提出する必要はありません。
タクシーを利用した場合は、タクシー利用の必要性・相当性があれば、タクシー代の実費を請求できます。
必要性・相当性は、以下の内容等を考慮して判断します。
脚の怪我で歩行が困難である、停留所や駅まで距離が離れている、被害者が高齢であるなどの場合は、必要性・相当性が認められますが、そのような事情がない限りは、原則としてタクシー代は認められません。
ただ、タクシー代が認められない場合でも、1円も請求できないということではなく、公共交通機関を利用した場合の金額の限度で請求することができます。
裁判例1.
大阪地裁平成7年3月22日判決
自宅から駅まで徒歩で1時間かかる被害者に対し、やむを得ないタクシー利用として、タクシー代の通院交通費約235万円を認めました。
(交通事故民事裁判例集28巻2号458頁)
裁判例2.
大阪地裁平成26年3月27日判決
顔面に傷が残った女子短大生(症状固定時23歳)につき、公共交通機関での通院は可能であったが、顔面の外貌醜状のために人目をはばかる心情は理解でき、タクシー利用が不相当とは言えないとして、タクシー代12万円を認めました。
(自保ジャーナル1927号92頁)
自家用車を利用した場合にも、同様に必要性・相当性が認められれば、ガソリン代を請求することができます。
この場合、ガソリン代を幾らとするかですが、自賠責保険では、1キロあたり15円で計算しており、示談交渉においても、1キロ15円までであれば、任意保険会社は文句を言わないようです。
なお、自宅から病院までの走行距離は、インターネットやスマホアプリの交通案内を利用して調べた結果をプリントアウトして提出すれば証拠として足ります。
自家用車の場合、病院での駐車場代、高速道路代も、その実費を請求できます。もちろん、その駐車場や高速道路を利用する必要性、相当性があることが条件です。
診療は2時間程度で終わるのに、買い物をするために半日も駐車場に留めていたり、寄り道をするために通常のルートを迂回する高速道路を利用したりした場合は、当然ですが、その全額の賠償請求をすることはできず、実際に必要であった範囲の金額のみ認められます。
裁判例3.
甲府地裁平成17年10月12日
首や手の痛みが残った被害者(女医)が、事故前は勤務先病院まで一般道を運転して自動車通勤をしていたところ、事故後は長時間の運転が困難となったために高速道路を利用したという事案で、裁判所は高速道路料金約30万円の請求を認めました。
(自保ジャーナル1640号16頁)
通院以外の交通費であっても、それが交通事故と因果関係のある損害である限りは賠償の対象となります。
例えば、脚を怪我したために、公共交通機関を利用しての通学や通勤が困難となり、タクシーを利用した場合には、必要性・相当性がある限り、タクシー代を請求することが可能です。
裁判例4.
名古屋地裁平成30年3月20日判決
自転車通学の途上に事故に遭って高次脳機能障害となった女子高校生が、事故後は自転車通学をすることが怖くなってしまい、バス通学に変更した事案で、裁判所はやむを得ない交通手段の変更であるとして、高校卒業までのバス定期代金約17万円の請求を認めました。
(自保ジャーナル2020号1頁)
なお、このような場合に、電車での通勤や通学ができなくなって、すでに購入していた定期券が使えなくなったという場合は、これも事故による損害ですから、無駄になった定期券代を請求することが可能です。
ただし、定期券の払い戻しができる場合には、払い戻された金額を控除した金額を請求することになります。これは、被害者にも損害の拡大を防止する義務があるからです。
通院交通費は、被害者本人の交通費であることが原則です。しかし、家族が入通院に付き添った場合には、その必要性・相当性がある限り、家族の交通費も認められます。
裁判例5.
札幌高裁平成13年5月30日判決
頭蓋骨骨折などで1840日間入院した女児(7歳)について、入院に付き添った母、叔母、祖母のそれぞれの入院付添交通費として、母は月額4万5000円の51ヶ月分、叔母は月額1万7400円の60ヶ月分、祖母は月額2万4000円の60ヶ月分、合計約478万円が認められました。
(交通事故民事裁判例集34巻6号1786頁)
さらに、近親者の「見舞いのための交通費」や、事故をきいた親族が駆けつけるための「駆けつけ交通費」も、死亡事故や重傷の事案では認められることがあります。
裁判例6.
名古屋地裁平成21年3月10日
5歳の被害者が死亡した事故につき、事故を知って駆けつけた祖父母4名の駆けつけ費用として飛行機代合計約17万円を認めました。
(交通事故民事裁判例集42巻2号371頁)
家族のお見舞い交通費、駆けつけ交通費について詳しくは、次の記事をご覧下さい。
「通院交通費明細書」とは、保険会社に通院交通費を請求する際に提出する書類です。各保険会社が自前の書式を用意してありますが、内容はほとんど同じです。
実際に病院へ行った日付を書きます。
記載例
電車、バス、タクシーなど利用した交通機関を記載します。
実際の往復の金額を書きます。
実際に診療を受けた病院を書きます。
タクシーの場合は領収書を添付します。必ず控えとして領収書のコピーをとっておきましょう。
自家用車の場合、1キロ15円で請求するなら、ガソリン代の領収書は不要です。走行距離を明らかにする前述の資料を添付します。
通院交通費の具体的な金額を請求されなければ、保険会社も幾ら払えば良いのか検討できませんから、通院交通費明細書は、いつ出すかというと、遅くとも示談交渉を開始する時点までには提出しておく必要があります。
その時点で、全部の通院交通費をまとめて記載して提出しても良いですが、通院交通費を支出するたびに通院交通費明細書を作成して請求してもかまいません。
任意保険会社が賠償金の内払いに応じてくれることもあるので、早く交通費が欲しい方や、後でまとめて請求するのでは領収書の紛失が心配という方は、その都度、あるいは毎月毎に通院交通費明細書を提出しておけば良いでしょう。ただ、コピーを残すことだけは忘れないで下さい。
例えば、病院が通勤経路にあり、会社が支給する通勤定期券で通院ができる場合の通院交通費は請求できるのでしょうか?
まず、当日、通院の前又は後に出勤をしたというケースがあります。
この場合は、定期券を使ったか、切符を買ったかにかかわらず、もともと通勤の交通費を支出しなければならかったわけですから、交通費は事故によって支出した費用ではありません。したがって、損害ではなく、その日の交通費は請求できません。
これに対し、会社が支給する通勤定期券を使って通院したものの、その日は診療のために全日欠勤したという場合は、たしかに事故がなければ電車に乗らなかったという関係にはあります。
しかし、この場合でも、定期代を負担しているのは勤務先会社であり、被害者自身は何も支出していません。したがって、損害がないので当日分の通院交通費を請求することはできません。
ただし、例えば、会社支給の通勤定期券を使った場合でも、通院先が会社の最寄り駅から、さらに数駅先の病院であるため、追加の交通費を支出した場合は、その追加分を加害者側に請求することは可能です。
通院交通費明細書に嘘の事実を書いてバレるとどうなるのでしょう。
通院交通費を請求することは、請求相手である加害者、任意保険会社を欺罔、すなわち「だまして」金銭を得ようとする行為ですから、刑法の詐欺罪(刑法246条1項)に該当します。たとえ実際に通院交通費を受けとる前であっても、虚偽の内容で請求した段階で、詐欺未遂罪です(同250条)。
発覚すれば10年以下の懲役刑で処罰される危険がありバレると危険です。保険会社は保険金詐欺には非常に厳しく対応し、刑事告訴されることは珍しくありませんので、絶対に嘘を書いてはいけません。
もっとも、詐欺罪は故意犯といって、嘘であることを認識しながら「だます行為」を処罰するものなので、記憶違いや勘違いといった「過失」で事実と異なる内容を記載してしまったときは、詐欺罪には該当しません。
ただ、たとえうっかりミスであっても、交渉相手である任意保険会社から不審に思われると、その後の交渉がスムーズにゆかなくなることもありますから、決していい加減な記載をしないよう、よく注意して記入しましょう。
そのためにも、通院した際の交通費については、バレるための嘘ではなく、きちんとメモを残しておきましょう。
交通事故における通院交通費とは、交通事故の被害にあい、病院に通院する際にかかった電車代・バス代・タクシー代などのことを言います。
通院交通費明細書はいつ出すのか、嘘はバレるのか日々の通院交通費は少額でも、積み重なれば無視できない金額となります。通院交通費の問題で疑問が生じた方は、交通事故問題に強い弁護士に御相談されることをお勧めします。