玉突き事故の責任、過失割合はどのくらい?被害者が知っておくべきこと

道路上を運転しているとき、車間距離をとれていなかったなどの事情で「玉突き事故」が発生してしまうケースがあります。玉突き事故では3台以上の車が関与するので、「誰にどのくらいの責任が発生するのか」判断しにくくなっています。
玉突き事故に遭ったら誰にどのくらいの責任が発生し、どのような賠償金の請求をできるものでしょうか?
今回は、玉突き事故の過失割合の考え方や後遺障害、損害賠償金の請求など、被害者が知っておくべきことをご紹介していきます。
玉突き事故と、責任の所在
玉突き事故とは
玉突き事故とは、直線上に並んでいる3台以上の車が次々と追突する交通事故です。渋滞時などに特に起こりやすくなっています。
車間距離を適正にとれていなかった場合などに後方車が前方の車に追突すると、追突された車が前に押し出されてさらに前の車に追突してしまいます。
このように、玉突きのような形で追突が連鎖するので「玉突き事故」と呼ばれます。
当事者の数は3台以上でときには4台、5台の玉突き事故もみられます。
玉突き事故の責任の所在
玉突き事故が起こったとき、問題になりやすいのは「誰に責任があるのか」です。一番後ろで当初に衝突した車が悪いのは当然としても、ぶつかられて押し出され、やむなく前方車にぶつかってしまった真ん中の車にも責任があるのか、また一番前の車両が急ブレーキを踏んでいたらそれなりの責任が発生するのではないかなど、いろいろな要素を考慮する必要があります。
責任が重くなるのは「追突した車両」
玉突き事故が発生したとき、基本的にもっとも責任が重くなるのは「一番後ろの車両」です。一番後ろの車両が追突しなければ、そもそも玉突き事故が発生していないからです。
また追突したということは、その車両は前方車両と十分に車間距離をとっていなかった可能性が高くなりますし、運転操作の不適切や脇見運転、前方不注視などをしていた可能性もあります。
「車間距離をとっていなかった場合」に責任が重くなる
玉突き事故では、「車間距離」をとっていなかった場合に責任が重くなります。たとえば真ん中の車が前方車両と十分な車間距離をとっていれば、後ろから追突されて前に押し出されても玉突きのように事故になることはなかったという状況も考えられます。
そのような場合には、車間距離をとっていなかった真ん中の車に責任が認められます。
「急ブレーキを踏んだ場合」に責任が重くなる
高速道路上でも一般道路上でも、急ブレーキを踏むととても危険です。後続車が急に止まれず玉突き事故が起こる原因にもなります。
そこで一番前の車が急ブレーキを踏んだら、その車の事故発生への責任が重くなります。
以上を前提に、玉突き事故の「過失割合」の考え方
をみていきましょう。
玉突き事故の過失割合
過失割合とは、交通事故当事者それぞれの責任割合です。玉突き事故では3台以上の車が関与して関係が複雑になるので、どの車にどの程度の過失割合が認められるのかが問題になりやすいです。
玉突き事故でも、過失割合は一般の「追突事故」と同じ
一般的な2台の車両の交通事故の場合、事故のパターンごとに過失割合の「基準の数値」が定められています。2台の追突事故の過失割合は、基本的に前方車両が0%、後方車両が100%です。前方車両は一方的にぶつかられていて非がないからです。
玉突き事故のように3台以上の車が関わる場合にも、基本的には2台の車の追突事故の過失割合の考え方をあてはめます。特別な過失割合算定基準は用意されていません。
典型的な玉突き事故で一番後ろの車が前方車に追突し、その車が押し出されてさらに前の車に追突した場合には、一番後ろの車の過失割合が100%となり、真ん中の車や一番前の車の過失割合は0%です。
2番目の車に過失割合が認められるケース
ただし玉突き事故の場合、2台目の真ん中の車が十分な車間距離をとっていなかったり、止まれるのに不適切な運転操作が止まらなかったなどの過失があったりするケースもあります。
その場合には一番後ろの車のみならず、真ん中の車にも過失割合が認められます。1番前の車両は0%ですが、2番目の車両に一定の過失割合が認められ最後方の車両にもっとも高い過失割合が割り振られるのが通常です。
1番前の車が急ブレーキを踏んだケース
車両が並んでいるときに、前方車両が急ブレーキを踏むと追突事故の危険が高まります。道路交通法も、不必要に急ブレーキを踏む行為を禁じています。
一般の2車間の追突事故の場合、前方車両が急ブレーキを踏んで追突事故が発生したら前方車両の過失割合が30%、後方車両の過失割合が70%となります。
玉突き事故の場合にも1番前の前の車両が急ブレーキを踏んだら基本的に30%程度の過失割合が認められ、車間距離の取り方なとによって2番目の車と3番目の車の過失割合が割り振られます。
高速道路上のケース
高速道路上でも玉突き事故が発生しやすいです。ただし高速道路では、車両が高スピードで走行しているのが原則で、駐停車している状況が想定されていないことなど、一般道とは異なる特殊性があります。そこで一般道とは基本の過失割合の考え方が異なります。
高速道路上で、自らの過失のある事情(事故を起こしたなど)によって停車している車両があり、後方車両が追突した場合の過失割合は、追突車の過失割合が60%、追突された車両が40%となります。
追突された車が、自分に過失のない要因でやむなく停車していた場合には、追突車の過失割合が80%、被追突車の過失割合が20%となります。
追突された車が路肩などによけて過失なく駐停車していた場合には、追突車の過失割合が100%、被追突車の過失割合が0%です。
追突された前方車が急ブレーキをかけた場合には、前方車と後方車の過失割合が50%:50%となります。
以上のように、高速道路上では「追突された車両」にもそれなりに高い過失割合が認められるケースが多いことに注意が必要です。玉突き事故が発生したときの過失割合は状況によりますが、前方の車両が急ブレーキをかけなくても前方車両に過失割合が認められる可能性が高くなっていますし、急ブレーキをかけたらより大きな過失割合を割り当てられます。
玉突き事故で発生する損害賠償金
玉突き事故に遭ったら、どのような損害賠償請求をできるのでしょうか?
玉突き事故では車両が3台以上関わるとは言っても、被害者の受ける損害内容は2台の交通事故と同じです。そこで損害賠償金の計算方法や請求できる金額も2車間の交通事故と全く同じになります。
具体的には以下のような費用を請求可能です。
物損について
- 修理費用
- 買換費用
- 代車費用
- 評価損など
人身損害について
- 治療費
- 雑費
- 交通費
- 付添看護費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
- 死亡慰謝料
- 死亡逸失利益
- 葬儀費用
損害賠償金の請求先は、基本的に「加害者の保険会社」です。責任のある当事者が2名いる場合には、どちらの保険会社と示談交渉をするのか、ケースに応じた対応が必要です。過失割合が0の当事者の保険会社には請求できません。
玉突き事故ではむちうちになりやすい
玉突き事故に遭うと「むちうち」になりやすいので注意が必要です。
むちうちとは
むちうちとは、玉突き事故で、後ろから追突されることによって首の骨(頸椎)が歪み、その周りの組織や神経を損傷することです。
追突事故で非常に発症しやすいので、玉突き事故の場合にも後ろから追突された衝撃でむちうちになる方が多数おられます。
玉突き事故でむちうちになると、以下のような問題が発生します。
治療期間が長引きやすい
玉突き事故でむちうちは、他の症状に比べても治療期間が長くなりやすい特徴があります。リハビリをしてもなかなか良くならないので、半年、10か月と通院を続ける方も少なくありません。
治療が3か月、半年を超えてくると、相手の保険会社が「そろそろ治療は終わりましょう」などと言ってきて治療費を打ち切るトラブルなども発生します。
後遺障害が残るケースもある
むちうちは、完治するケースもありますが、高速道路などで激しい玉突き事故の場合、後遺障害が残る場合も多々あります。その場合、適切に後遺障害認定を受けて「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」を請求する必要があります。
ただむちうちではMRIなどで撮影をしても異常所見を見つけられず、立証が難しくなりやすいです。後遺障害非該当となり、泣き寝入りする被害者もおられます。
玉突き事故で後遺障害が認められる場合の慰謝料
玉突き事故でむちうちになった場合、後遺障害が認められる場合には、たいてい12級か14級となります。
12級になるのは、MRIなどで組織変性などを証明できるケースです。その場合後遺障害慰謝料は290万円程度支払われます。
14級になるのは、MRIなどでは異常を証明できなくても被害者の自覚症状を合理的に推認できる場合です。神経学的な検査や通院当初からのカルテなどを参照して判断します。
14級になった場合の後遺障害慰謝料の金額は、110万円程度です。
ただし上記の後遺障害慰謝料の金額は「弁護士基準」で計算したものです。
交通事故の賠償金算定基準は複数あり、任意保険会社は保険会社独自の計算基準を作っています。被害者が自分で保険会社と示談交渉をするときには、その任意保険会社の基準を当てはめられるので、慰謝料が上記の2分の1~3分の1程度に下げられてしまうケースも多々あります。
玉突き事故の被害に遭って、自分で示談交渉をしたとき、相手からの提示金額が低いと感じたら、そのまま示談せずに弁護士に相談してみる方が良いでしょう。
玉突き事故に遭ったら弁護士に相談すべき
玉突き事故では、過失割合やむちうちの後遺障害など、素人の方がお一人では対処仕切れない問題が多々発生します。
誰にどのくらいの過失割合を当てはめるかということも、基本的には保険会社が決めてしまい被害者の言い分を聞いてもらえないケースが多々あります。
後遺障害も、保険会社に任せていたら適切に認定されない可能性が高くなります。
このようなとき、あなたの助けになってくれるのは弁護士です。
弁護士であれば、保険会社と話し合いを行ってケースごとに適切な過失割合を当てはめてくれます。後遺障害についても、保険会社に任せるべき状況でなければ「被害者請求」の手続きをとり、積極的に症状を立証していくことも可能です。
玉突き事故で困ったことがあったら、まずは交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談して、アドバイスをもらうところからはじめましょう。