子ども・学生の後遺障害逸失利益|学歴等に注意して計算!

子ども・学生の後遺障害逸失利益は

後遺障害逸失利益は、事故の後遺症により労働能力が損なわれ、将来的に収入を得ることができなくなった場合の収入損失を補償するものです。

就業経験のない子供、生徒、高校生、大学生などは、収入実績がないので、統計上の平均賃金を参考にすることが一般的です。

ただし、統計には性別、業種、企業規模、学歴、年齢などさまざまな要因が影響するため、どの統計データを選択するかが重要です。

この記事では、未就業者のうち若年層(子供、生徒、学生など)に関する計算方法から、基礎収入計算に用いるべき統計データについて詳しく説明します。

後遺障害逸失利益の計算方法

後遺障害逸失利益は、次の計算式で算定します。

一時金で受け取る場合

  • 後遺障害逸失利益 =基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

定期金方式で受け取る場合

  • 後遺障害逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間(年数)

18歳未満の子どもは就労開始までの逸失利益を差し引いて計算

逸失利益の算定にあたって、18歳を就労開始時期とすることが原則です。

例えば、6歳で症状固定となった場合、6歳から18歳までの12年間は、事故がなくても働かなかったはずなので、逸失利益は発生していません。

そこで、6歳から就労終期である67歳までの61年間の逸失利益から、6歳から18歳までの12年間の逸失利益を差し引かなくてはなりません。

具体的には、次の計算方法で求めます。

61年に対応するライプニッツ係数 27.840- 12年に対応するライプニッツ係数 9.954 = 17.886

子ども・学生の基礎収入

基礎収入は「賃金センサス」を用いる

基礎収入の認定に用いる統計資料は、厚労省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」、通称「賃金センサス」です。

産業計・企業規模計・学歴計・男女別全年齢の平均賃金を用いることが基本です。

これは、産業の種類、企業の規模、学歴、年齢で区別しない「男女別」の賃金の平均です。

賃金センサスの詳細については、次の記事をご覧下さい。

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大学生などの場合は、学歴別統計

大学生・大学院生・高専生・短大生の場合、「学歴別」の「男女別」平均賃金を用います。

大学など入学前でも学歴別統計を使う場合がある

被害者が、まだ大学など(大学院・高専・短大を含む)に進学前の高校生以下であっても、大学などへ進学する蓋然性が認められれば、「学歴別」の男女別平均賃金が基礎収入とされます。

進学の蓋然性は、家庭の状況(特に両親の学歴や希望)、本人の希望、本人の学業成績、在学校の進学実績などから判断されます。

裁判例

大阪高裁 平成17年1月25日 判決

被害者は男子中学生(13歳)の事案です。両親は、生徒を有力大学・高校に多数合格させている進学塾と予備校の経営者であること、父は大卒、母は短大卒であること、被害者本人の学業成績も優秀であることから、大学進学の蓋然性を認め、男子・大卒・全年齢平均賃金680万9600円(平成8年時点)を基礎収入と認定しました。

(交通事故民事裁判例集38巻1号1頁)

大学生の場合、スタートは22歳となる

ただし、学歴別平均賃金を用いる場合、大学などを卒業した年齢から就労するものとして算定されるので、18歳から就労する場合よりも、逸失利益の総額が低額になるケースもあります。

したがって、学歴別統計を用いるべきかどうか、必ず試算をしてみて、被害者に有利な算定を主張するべきでしょう。

学歴|医学薬学系など専門教育の場合

医学部、看護学部、薬学部などで専門教育を受けている場合、特定の職業に就く蓋然性が認められれば、産業計ではなく、職業別等の平均賃金が基礎とされます。

裁判例

名古屋地裁 平成29年4月21日 判決

看護学部の女子大学生(症状固定時19歳)の事案です。同大学では、毎年、看護師志望卒業生のほぼ100%が国家試験に合格し、半分以上が同大学病院に就職すること、同大学病院には800名余りの看護士が就業していることなどから、大学病院の看護師相当の収入を得る蓋然性を認め、企業規模100人~999人の看護師給与の平均である462万0400円を基礎収入としました。

(交通事故民事裁判例集50巻2号483頁)

学生のアルバイト、パート収入

学生で事故前にアルバイトやパートで収入があった場合、その収入は基礎収入とならないのか?という疑問を持つ方もいるかもしれません。

しかし、逸失利益は原則として就労終期である67歳までの損害を補償するものですから、アルバイトやパートの収入を基礎収入とすることは、生涯、学生時代のアルバイト・パート収入しか得られないと自ら主張することに他ならず、余程、高額のアルバイト代を得ていない限り損をしてしまいます。

したがって、このような主張をするべきではありません。

女子年少者の基礎収入

女子年少者には「女子」平均賃金は使わない

子どもの基礎収入で最も問題があるのが、女子年少者の基礎収入です。

逸失利益は将来の減収を補償するものであり、現実に男女の収入には格差があることを重視すれば、女子には、男女別の「女子」労働者の平均賃金を用いることになります。

しかし、次の理由から、女子年少者には、男女計(つまり男女を区別しない全労働者)の平均賃金を用いるべきという考えもあります。

  1. 現実の男女間の収入を重視すると、格差が大きくなりすぎる
  2. 逸失利益は将来の損害を予測するものであるところ、男女間格差は縮小傾向にあるから、将来にわたって現在の格差が継続することを前提とした算定をするべきではない

実は、この点について高等裁判所の裁判例は分かれています。11歳の女子につき女子平均賃金を用いた裁判例(※1)もあれば、同じく11歳の女子について男女を区別しない全労働者の平均賃金を用いた裁判例(※2)もあるものの、どちらが正しいかを示した最高裁の判例はありません。

ただ、近時は、男女間格差をなくすべく、男女を区別しない全労働者の平均賃金を用いる裁判例が一般的となってきたと報告されています(※3)。

※1:東京高裁平成13年10月16日判決(判例時報1772号57頁)
※2:東京高裁平成13年8月20日判決(判例タイムズ1092号241頁)
※3:東京地裁民事交通部・影山智彦裁判官講演録「女子年少者の逸失利益算定における基礎収入について」(損害賠償額算定基準・2018年版下巻・7頁)

女子年少者に男女計(全労働者)平均賃金を用いるのは何歳までか?

さて、「女子年少者」に男女計(全労働者)平均賃金を用いる立場をとったとしても、いったい何歳までが「女子年少者」なのでしょうか?

中学修了まで

この点、少なくとも義務教育(中学)修了までは男女計(全労働者)平均賃金を用いることが「実務上定着している」と報告されています(前出裁判官講演録による)。

義務教育修了までは現実に就労する者がいないので、次に述べる高校生のような「同世代間での不均衡」の問題が生じないことが影響していると思われます。

高校修了まで

高校修了時までの取扱いは、さらに問題です。

高校進学率が高いとは言っても、100%ではなく、現実に中学を卒業して働いている方もいます。例えば、中卒で現実に働いている女性A子さんが、高校生と同じ年齢で被害者となった場合は、A子さんの現実の収入が基礎収入となります。

ところが、高校生の女子B子さんが被害者となった場合に男女を区別しない全労働者の平均賃金を用いると、通常はA子さんよりも逸失利益が高くなります。

このA子さんとB子さんの「同世代間での不均衡」を問題視し、中卒女子労働者とのバランスを重視するなら、高校生女子には、女子平均賃金を用いるべきという考え方となります。

他方、現実に既に就労者となった者と異なり、高校生の段階では、将来的に、どのような職業につき、どの程度の収入をあげることができるかについて、多様性の幅が広い・選択肢が多いのだから、必ずしも不均衡ではないという考え方もあります。

この考え方からは、高校生女子にも、全労働者平均賃金を用いることになります。

裁判例は分かれているものの、近時は、男女を区別せず、全労働者の平均賃金を用いる裁判例の方が多いと報告されています(前出裁判官講演録)。

裁判例

名古屋地裁 平成26年1月9日 判決

女子高校生(症状固定時17歳)が、高次脳機能障害などで併合4級の後遺障害となった事案です。

大学付属高校に在籍し、事故当時は同大学への進学を見込める成績を収めており、実際に事故後に同大学に進学したことなどから、全労働者・大学、大学院卒・全年齢平均である591万7400円を基礎収入とし、45年間にわたる79%の労働能力喪失を認めました。

(交通事故民事裁判例集47巻1号24頁)

大学生、大学院生、高専生、短大生

大学生などについては、学歴別の女子平均賃金が用いられることが基本です。

これは、大学などへの進学率が増加しているとはいえ、高卒で就職している同世代も多く、全労働者平均を用いた場合の「同世代間の不均衡」の問題を無視できないからです。

また、進学先の内容から、卒業後の仕事も高校生時代に比べれば相当程度に具体的に予測できるので、女子平均賃金を用いることが実態に合わなければ、被害者側で個別の具体的事情を主張、立証することが困難ではないことも理由のひとつです。

子ども・学生の後遺障害逸失利益の計算

ここまで説明したとおり、子ども・学生の後遺障害逸失利益については、どの統計数値を「基礎収入」とするかが最も問題ですが、ここではいくつかの例をあげて子ども・学生の後遺障害逸失利益の実際の金額を計算してみましょう。

ケース1.9歳男子・右ひじ関節の機能障害(8級)

  • 基礎収入:560万9700円(令和元年、産業計・企業規模計・学歴計・全年齢・男子労働者の平均賃金)
  • 労働能力喪失率:45%
  • 労働能力喪失期間:49年間(67歳ー18歳)
  • ライプニッツ係数:(法定利率3%)19.545(※)

    ※9歳から67歳までの係数から、9歳から18歳までの係数を差し引いた数値)

一時金で受け取る場合

560万9700円 × 45% × 19.545 = 4933万8713円

定期金方式の総額

560万9700円 × 45% × 49 = 1億2369万3885円

ケース2.9歳女子・右ひじ関節の機能障害(8級)

上のケース1の例で、被害者が女子であった場合はどうなるでしょうか?違いは基礎収入だけとします。

  • 基礎収入:500万6900円(令和元年、産業計・企業規模計・学歴計・全年齢・男女計全労働者の平均賃金)
  • 労働能力喪失率:45%
  • 労働能力喪失期間:49年間(67歳ー18歳)
  • ライプニッツ係数:(法定利率3%)19.545(※)

    ※9歳から67歳までの係数から、9歳から18歳まで係数を差し引いた数値)

一時金で受け取る場合

500万6900円 × 45% × 19.545 = 4403万6937円

(男子との差額は▲530万1776円

定期金方式の総額

500万6900円 × 45% × 49 = 1億1040万2145円

(男子との差額は▲1329万1740円

ケース3.17歳女子・高次脳機能障害等(4級)

前述の女子高校生(症状固定時17歳)が、高次脳機能障害などで併合4級の後遺障害となった裁判例(名古屋地裁平成26年1月9日判決)の事案をモデルとして試算してみましょう。

  • 基礎収入:591万7400円(判決が認定した全労働者・大学、大学院卒・全年齢平均)
  • 労働能力喪失率:79%
  • 労働能力喪失期間:45年間(67歳ー22歳)
  • ライプニッツ係数(法定利率3%):27.331(9歳から67歳までの係数)- 10.635(9歳から22歳までの係数)=16.696

一時金で受け取る場合

591万7400円 × 79% × 16.696 = 7804万9559円

定期金方式の総額

591万7400円 × 79% × 45 = 2億1036万3570円

まとめ

子ども・学生が被害者の場合における賃金センサスでの基礎収入の認定について説明しました。

もっとも、これはあくまでも一般的な考え方であり、現実の逸失利益算定は、個別の事情に左右されます。

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