無職・ニートの後遺障害逸失利益はいくら?計算方法や裁判例を解説

無職・ニートの後遺障害逸失利益

交通事故の後遺障害で、働く力(労働能力)が低下し、得ることができなくなった収入を補償するのが、後遺障害逸失利益です。

後遺障害逸失利益は、事故前の収入を「基礎収入」として計算することが基本です。

事故前に働いていた被害者ならば、事故に合う直前の収入がわかります。

しかし、無職者やニートは、事故直前の収入がありません。この場合、被害者の基礎収入は、どのように認定するのでしょうか?

この記事では、無職者(失業者を含む)、ニートの基礎収入の問題を主として説明してゆきます。

無職・失業者にも後遺障害逸失利益は認められる

逸失利益は、労働能力の喪失・低下によって、稼ぐことができなくなった収入です。無収入の無職者は、そもそも稼いでいないのであるから、何らの損失もなく、逸失利益は認められないのでは?という疑問も沸きます。

しかし、いつ事故に逢うかは誰にとっても偶然の事情です。働いているときに事故に遭えば逸失利益が認められるのに、たまたま会社が倒産して失業中に事故に遭ったからといって逸失利益はゼロだとされるのは不公平ですし、被害者救済という損害賠償制度の目的にも反します。

特に、後遺障害逸失利益では、通常、就労終期である67歳までという、相当な長期間にわたる損失を予測して補償します。

したがって、事故時に収入がなかったという一事をもって、就労終期まで収入がないと決めつけるべきではありません。

そこで、労働能力、労働意欲、就労の蓋然性があることを疑わせるような事情がなければ原則として逸失利益を認める扱いとなっています(※)。

※「交通賠償のチェックポイント」(弁護士高中正彦他編著・弘文堂)118頁

裁判例

東京地裁 平成17年3月23日 判決

無職男性(症状固定時58歳)の事案です。被害者は、9年前に別の労災事故で後遺障害障害となった経歴があり、今回の事故で、さらに別の後遺障害となりました。

事故時は無職で、姉から小遣いをもらっていたものの、フォークリフトの運転免許があり、労災事故前には月額25万円の収入を得ていたこともあり、労災後にもバス清掃などの仕事をしていた事実もあることから、事故時に就労の意欲、就労の蓋然性が「全くなかったとは言えない」として逸失利益を認めました。

(自保ジャーナル1594号3頁)

ニートの後遺障害逸失利益

「ニート」は、通常「比較的若年で通学も就労(家事労働を含めて)もしていない者」を意味する用語ですが、法律上の用語ではなく、厳密に定義された言葉でもありません。

交通事故の逸失利益を算定する上では、次の点で結論が左右されますから、被害者が「ニート」という用語に当てはまるかどうかは問題ではありません。

  1. 有職者か無職者か
  2. 無職者だったときは、労働能力と労働意欲があり、就労の蓋然性があるか否か

仮に被害者が「ニート」と呼ばれる存在だったとしても、本人に労働能力と労働意欲があり、就労の蓋然性があると認められるなら、後遺障害逸失利益も認められるのです。

後遺障害逸失利益の計算方法

後遺障害逸失利益は、次の計算式で算定します。

一時金で受け取る場合

  • 後遺障害逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

定期金方式で受け取る場合

  • 後遺障害逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間(年数)

後遺障害逸失利益の計算式と定期金方式については、それぞれ次の記事をご覧ください。

交通事故で後遺症が残ったとき、損害賠償金の大きな部分を占めるのが、「後遺障害逸失利益」です。ただ、「逸失利益」という…[続きを読む]
最高裁は、2010(令和2)年7月9日、交通事故で後遺障害となった方に対する将来の収入(逸失利益)の賠償を、今後49…[続きを読む]

無職、ニートの基礎収入

では、無職(失業者を含む)、ニートの逸失利益算定にあたり、その基礎収入は、どのように認定するのでしょうか?

この場合、以下いずれかの統計上の平均賃金によって基礎収入を算定します。

  • 失業前の収入
  • 賃金センサス

失業前の収入によって基礎収入を認定する場合

裁判例(失業前の収入全額を基礎収入としたもの)

札幌地裁 平成29年3月10日 判決

無職男性(症状固定時30歳)が、右股関節痛など併合12級の後遺障害となった事案です。

被害者は、うつ病によって、前の勤務先である自動車販売会社を退職となった後に事故に遭いました。

事故時こそ、うつ病のために就業可能な状態ではなかったものの、事故の後、障害者枠による契約で、家電量販店において、週4日間・実働5時間の就労をしていることから、将来にわたり就労する蓋然性があるとされました。

そして、休職前の自動車販売会社における給与額約308万円を基礎収入として、10年間14%の労働能力喪失が認められました。

(交通事故民事裁判例集50巻2号277頁)

失業前の収入を参考としても、その全額ではなく、何割かを基礎収入とする裁判例もあります。

裁判例(失業前の収入の9割を基礎収入としたもの)

大阪地裁 平成25年8月29日 判決

無職男性(症状固定時32歳)が右膝痛等で併合11級の後遺障害となった事案です。

被害者は事故の1年2ヶ月前に失業していましたが、裁判所は、就労の蓋然性があったとして、67歳まで35年間の逸失利益を認めました。しかし、基礎収入は失業前の収入を参考としつつも、その全額ではなく、その90%である419万円にとどめました。

そして、神経症状は一定期間で緩和する面があることなどから、当初15年間は20%、その後20年間は9%の労働能力喪失としました。

(交通事故民事裁判例集46巻4号1146頁)

平均賃金によって基礎収入を認定する場合

平均賃金は、賃金センサスの男女別の平均賃金を使い、事案に応じて、年齢別、学歴別など各種の平均賃金の数字を用います。

また、常に平均賃金の全額が認められるわけではなく、諸事情を考慮して、その何割かにとどめられる裁判例もあります。

裁判例(平均賃金の7割を基礎収入としたもの)

神戸地裁 平成24年1月31日 判決

失業保険受給中の男性(37歳)が頚部痛など末梢神経障害(14級)となった事案です。

事故時は無職でしたが、事故の直前までは就労しており、今後は重機オペレーターとして働く予定であったこと、大型免許など各種資格も有していることなどから、再就職の蓋然性があるとして逸失利益が認められました。

ただし、基礎収入は、稼働意欲や収入状況などに照らして、賃金センサスの男子・学歴計・年齢別35歳~39歳の平均賃金の全額ではなく、その70%である373万4500円にとどめました。

(自保ジャーナル1873号2頁)

賃金センサスの詳細については、次の記事をご覧下さい。

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無職・ニートの後遺障害逸失利益の計算

ここまで説明したとおり、無職・ニートの後遺障害逸失利益については、「基礎収入」の認定が最も問題ですが、ここではいくつかの例をあげて無職・ニートの後遺障害逸失利益の金額を計算してみましょう。

ケース1.26歳無職男性(大卒)・12級のむち打ち症

  • 基礎収入:458万8000円(令和2年、産業計・企業規模計・男性・大学、大学院卒・年齢別25~29歳の平均賃金)
  • 労働能力喪失率:14%
  • 労働能力喪失期間:10年間(※1)
  • 10年のライプニッツ係数:(法定利率3%)8.530

458万8000円 × 14% × 8.530 = 547万8989円

ケース2.37歳失業中の男性・14級の末梢神経障害

先に紹介した裁判例(神戸地裁平成24年1月31日判決)の事案をモデルとして試算してみましょう。

  • 基礎収入:373万4500円(平均賃金の70%として判決で認定された金額)
  • 労働能力喪失率:5%
  • 労働能力喪失期間:5年間(※2)
  • 5年のライプニッツ係数:(法定利率3%)4.580

373万4500円 × 5% × 4.580 = 85万5200円

※1、※2:裁判例では、むち打ち症などの末梢神経障害の労働能力喪失期間は12級で10年間、14級で5年間に制限されることが多く、ここではこれに従っています。

ケース3.32歳失業中の男性・11級の神経障害等

ここも、先に紹介した裁判例(大阪地裁平成25年8月29日判決)の事案をモデルとして試算してみましょう。

  • 基礎収入419万円:(失業前収入の90%として判決で認定された金額)
  • 労働能力期間と喪失率:32歳~47歳の15年間20%、47歳~67歳の20年間9%
  • 15年のライプニッツ係数:(法定利率3%)11.938
  • 20年のライプニッツ係数:(法定利率3%)14.877

労働能力喪失を当初15年間は20%、その後20年間は9%としているので、逸失利益は、以下の通りとなります。

419万円 × 20% × 11.938 =1 000万4044円

419万円 × 9% × 14.877 = 561万0116円

合計 1561万4160円

まとめ

無職・ニートが被害者の場合における後遺障害逸失利益について説明しました。

ただし、ここで説明した内容は一般的な基準に過ぎません。実際の逸失利益算定は、被害者個別の事情に大きく左右されます。

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