中間利息控除とは?|ライプニッツ係数・ホフマン係数の計算を詳しく解説
後遺障害逸失利益の賠償を受けるときには、逸失利益から中間利息を控除しなければなりません。控除する額の計算に使用するの…[続きを読む]
賠償金を分割して毎月支払う「定期金賠償」は、交通事故における将来の介護費用等では、多くの裁判例で認められ、実務に定着した感がありました。
しかし「後遺障害逸失利益」については、最高裁の判断が待たれていました。
最高裁は、2010(令和2)年7月9日、交通事故で後遺障害となった方に対する逸失利益の賠償を、今後49年間にわたって毎月支払えという「定期金賠償」を命じる判決を下しました(※)。
この新判例は、次の点を明らかにしています。
この新判例は、被害者保護に役立つものとして、おおむね好意的に受け入れられたようです。
この記事では、定期金賠償とは何か、メリット・デメリット、具体的な賠償金総額の違い、今後の課題などについて詳しく説明します。
目次
2007(平成19)年2月発生の交通事故です。
被害者は事故当時4歳の男児です。大型トラックと衝突し、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の傷害で、高次脳機能障害が残り、後遺障害等級第3級3号に該当し、労働能力喪失率は100%でした。
被害者側は、就労可能期間である18歳から67歳までの49年分の後遺障害逸失利益の賠償を請求し、その支払方法として18歳から67歳までの49年間、毎月の定期金払いを求めました。
第一審判決、控訴審判決*は、ともに被害者側である原告らの請求どおりに後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めました。
*札幌地裁平成29年6月23日判決(自保ジャーナル2003号1頁)、札幌高裁平成30年6月29日判決(自保ジャーナル2028号1頁)
これに対し、保険会社を含む被告ら側が争い、上告していたものですが、最高裁は控第一審と控訴審訴の判断を支持し「上告を棄却」し、後遺障害逸失利益の定期金賠償を認めたのです。
損害賠償金には、2つの支払方法があります。「定期金賠償」と「一時金賠償」です。
「定期金賠償」とは、例えば、毎月1回とか毎年1回などの定期に、分割して支払う方法です。これは「定期金払い」、「定期金(払い)方式」などとも呼ばれます。
一時金賠償とは、賠償金の全額を一括して支払う方法です。「一時金払い」、「一時金(払い)方式」などとも呼ばれます。
損害賠償を請求する裁判では、通常、被害者が一時金賠償を請求し、裁判所がこれを認める判決を下します。
治療費や休業損害のように、すでに現実化している過去の損害についてはもちろんですが、未だ現実化していない将来の損害についても、一時金賠償が認められます。
将来の損害としては次のものがあげられます。
これらについて、損害が現実化しなければ賠償を請求できないとすると、例えばサラリーマンの逸失利益は、毎月、訴訟提起を余儀なくされかねず、被害者保護に欠け、何より現実的ではありません。
そこで、法律の世界では、逸失利益などの将来的に現実化する損害も、事故発生の時点で損害として現実化しているとみなし、一定の予測のもとに計算した損害額を一括して支払うことが認められています。被害者救済のための、いわば「フィクション」なのです。
もっとも、将来に現実化する損害ならば、今の時点で支払義務を認めたうえで、支払方法としては、その現実化した時点で支払うものとする方が合理的です。
そこで、定期金賠償の可否が問題ですが、民法には、賠償金の支払方法について、格別の定めがありません。
そのため、かつては定期金賠償を命ずる判決を下せるのかどうか自体が争われていました。
ところが、1996(平成8)年の民事訴訟法改正で、定期金賠償を判決で命じうることを前提とした第117条が新設され、この点の問題は解決されました。
定期金賠償が許されること自体は法改正によって明確となったのです。
民事訴訟法第117条(定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴え)
第1項「口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。」
では、定期金賠償を認めることには、どのような意義があるのでしょうか?
被害者側と保険会社側にわけて、定期金賠償のメリット・デメリットを見てみましょう。
一時金賠償では、浪費や投資の失敗で賠償金を失ってしまう危険がありますが、定期金賠償ならば、その危険は少ないということです。
もっとも、受け取った賠償金をどのように消費しようとも、被害者の自由であり、使い途にまで配慮して支払方式を決める必要はないとも言えます。
定期的に賠償金を支払わせることで、加害者が事故を忘却することを防止し、懲罰的な効果があるというものです。
しかし、ほとんどの場合、実際に支払いをするのは保険会社ですから、あまり意味はありません。
将来的にインフレで貨幣価値が大きく下落すると、一時金で受け取った賠償金の価値も下落してしまいます。
他方、定期金賠償としておけば、前述の民訴法第117条により、金額の変更を求めることが可能となります。
被害者にとって、定期金賠償の最大のメリットは、中間利息の控除を回避できることです。
後遺障害逸失利益について見てみましょう。
後遺障害逸失利益は、後遺障害による労働能力の低下で失われる将来の収入を補償するものです。
例えば、サラリーマンであれば、将来の収入は毎月の給与ですから、一時金賠償は、本来の支給時期よりも前に、給与をまとめて受け取ることと同じです。
このまとまった一時金を利殖したならば、被害者は、毎年の利息を受け取ることできます。
しかし、被害者が損害額を超える利益を得ることは不公平ですから、将来の利息(中間利息)を控除する必要があるとされるのです。
中間利息についての詳しい解説は下記別途記事をご参考ください。
2020(令和2)年4月1日以降発生の事故については、中間利息は、年3%の割合で計算し、控除されます。
しかし、現在の金利水準では、年3%は非常な高利であり、これを控除されてしまうと、被害者側には著しく不利なのです。
他方、定期金賠償では中間利息は一切控除されませんから、被害者が受け取る賠償総額が大きくなります。
定期金賠償か否かで生じる金額の違いは、後に詳しく説明します。
定期金賠償は、何十年もの長期間にわたって支払いを継続するものですが、加害者側がその責任を最後まで果たせるという保証は何もありません。
多くの場合、実際に支払うのは損害保険会社ですが、どんな大企業であっても、将来、倒産しないとは限らないのです。
この被害者側の不安を解消するには、賠償義務を負う側から被害者へ担保を提供するなどの法制度の整備が必要ですが、未だ、そのような制度は実現していません。
民事訴訟は、当事者間の紛争を一回的に解決することを目的とします。せっかく裁判で法的争いに結論が出されても、争いの余地が残るようでは、裁判の意味がないからです。
しかし、定期賠償では、次のような場合に、民訴法第117条による判決変更の是非をめぐって紛争が再燃することになります。
被害者が、今後毎月請求しなくてはならないことは負担だとされています。
もっとも、多くの場合、保険会社が管理して送金してくれるでしょうから、実際上は、被害者には、このデメリットはないでしょう。
例えば、介護費用の定期金賠償において、支払の終期を被害者の死亡時と定めたならば、保険会社は、被害者が死亡した後の介護費用を支払う義務を負いませんから、メリットがあります。
もっとも、後遺障害逸失利益を同様に扱うかどうかは争いがあったところで、本件新判例は、支払の終期は被害者の死亡時ではなく、就労可能期間の終期である67歳だとしましたから、後遺障害逸失利益については、保険会社に、このメリットはないことがハッキリしました。
この点については、後に再度、詳しく説明します。
保険会社には、長年にわたって、毎月の支払を管理、実行するコストが継続してかかることになります。
将来、インフレで貨幣価値が下がった場合、民訴法第117条で金額の変更が認められると、保険会社の支払額が名目上は増額となってしまいます。
定期金賠償に中間利息の控除がないことは、保険会社にとっては最大のデメリットです。
一時金賠償の場合は、年5%(令和2年3月31日発生事故まで)や年3%(同年4月1日以降発生事故から)という、現実にはあり得ない高い利率の中間利息を差し引くことで、膨大な金額を節約してきたのに、それができなくなるからです。
さて、定期金賠償を選択すると中間利息が控除されないことが、被害者にとっての最大のメリットであり、保険会社側にとっての最大のデメリットであると説明しました。
それでは、中間利息が控除されないことによって、被害者側は、具体的にどれだけの金額を得られるのでしょう?
本判例の事案について、金額を計算してみましょう。
前提となる事実は次のとおりです。
なお、後遺障害逸失利益の基本的な計算方法については下記の記事をあわせてご参考ください。
これを前提に、一時金賠償とした場合の逸失利益の金額を計算してみましょう。
過失相殺前の逸失利益総額
529万6800円 × 100%(※1) × 12.297(※2)= 6513万4749円
※1:後遺障害等級3級の労働能力喪失率です。
※2:「12.297」は、症状固定時10歳の場合のライプニッツ係数です。2020(令和2)年3月31日以前の交通事故なので、年5%で計算されます。また、18歳未満の場合にライプニッツ係数を適用する場合は、症状固定時から67歳までの年数に対応した係数から、症状固定時から18歳までの年数に対応した係数を差し引いた数字を用います。
18歳未満の被害者に対する中間利息の計算方法についての詳細は、次の記事を参考にしてください。
この事案では、「被害者の過失が20%」と認定されていますので、一時金賠償としたときの逸失利益の金額は、次のとおりとなります。
過失相殺後の逸失利益総額
6513万4749円 × (100%-20%) = 5210万7799円
他方、この判例では、定期金賠償を認めたため、逸失利益の総額は次の金額となります。
過失相殺前の逸失利益総額
588ヶ月 × 月額44万1400円 = 2億5954万3200円
過失相殺20%を控除すると、次のとおりです。
過失相殺後の逸失利益総額
2億5954万3200円 × (100%-20%)= 2億0763万4560円
さて上の計算から、一時金賠償と定期金賠償の総額に、どれだけ差があるかを比較してみましょう。
中間利息を年利5%で計算
一時金賠償 | 定期金賠償 | 差額 | |
---|---|---|---|
過失相殺前 | 6513万4749円 | 2億5954万3200円 | 1億9440万8451円 |
過失相殺後(80%) | 5210万7799円 | 2億0763万4560円 | 1億5552万6761円 |
驚きですね。過失相殺をする前では、一時金賠償にすると、約1億9440万円も逸失利益が安くなるのです。20%の過失相殺をした後でも、約1億5552万円も逸失利益が安くなります。
中間利息の控除が、いかに莫大な金額を差し引くものなのかが、よくわかります。
本件では、裁判所が定期金賠償を認めてくれたため、被害者は過失相殺されても、約2億0763万円の逸失利益を受け取ることが確定したわけですが、もしも保険会社の主張がとおれば、逸失利益は約5210万円となり、約4分の1しか受け取ることができなかったのです。
他方、保険会社にとっては総額で約1億5552万円もの支払いの増額となってしまうわけです。
しかし、保険会社は一時金で支払うことを免れるのですから、これまで自分たちが主張してきたとおり、支払を免れた原資を利殖して年5%の利息を稼げば損はしないはずです。
もしも、それができないと言うならば、これまで「中間利息を控除しろ」と言っていた主張自体がデタラメだったことを認めることになります。
なお、仮に本件が2020(令和2)年4月1日以降の事故で、法定利率年3%が適用される場合だったとしたら、各金額は、どのようになっていたかも計算してみます。
中間利息を年利3%で計算
一時金払い | 定期金払い | 差額 | |
---|---|---|---|
過失相殺前 | 1億0662万9880円 | 2億5954万3200円 | 1億5291万3320円 |
過失相殺後(80%) | 8530万3904円 | 2億0763万4560円 | 1億2233万0656円 |
中間利息の利率が引き下げされたことで、一時金払いと定期払いの差は縮まりましたが、それでも依然として、1億数千万円の違いがあるのです。
さて前述のとおり、法律の改正で定期金賠償が認められるという点で争いはなくなりましたが、定期金賠償をめぐる問題点は、まだまだ、いくつも残されていました。
本件の新判例は、そのうち、次の2点について最高裁の考え方を明らかにしたものです。
上記1について本判例は、被害者の不利益を回復して、損害の公平な分担を図るという損害賠償制度の目的と理念に照らして相当と認められるときに、定期金賠償を認めることができるとしています。
そして後遺障害逸失利益は、将来的に利益の喪失が現実化するたびに定期金の支払をさせ、時間の経過で判決が基礎とした事情が変化し、判決で命じた定期金の額と現実化した損害額に乖離(かいり)が生じたときには、民訴法117条での是正を図れるようにしておくことが相当な場合があり、本件がまさにそうだとしています。
上記2について本判例は、特段の事情がない限り、後遺障害逸失利益の定期金賠償の終期は就労可能期間の終期(67歳)であり、被害者の死亡時ではないとしています。
前述したとおり、将来の介護費用を定期金賠償とする場合には、支払終期は被害者死亡時とされるのが通例であり、本件の原告も将来介護費については、被害者の死亡時を終期として定期金賠償を求めており、保険会社側もこれを争っていません。
被害者が死亡してしまえば、その後は、家族や職業ヘルパーによる介護は行われないのですから、介護費用という損害は発生しません。また被害者が現実に生きている限り介護費用は発生するので、定期金賠償とする限り、平均余命を支払終期とすることもできません。
したがって、将来の介護費用に関する限り、被害者の死亡時を支払終期とすることは合理的です。
他方、後遺障害逸失利益についても、被害者が死亡してしまえば、それ以後の利益喪失は現実化しないはずですから、将来介護費と同じ取扱いをすべきという主張もあります。まさに本件の保険会社側主張がそうでした。
しかし、本判例は、この主張を斥け、支払終期は就労可能終期である67歳としました。
もともと最高裁は、被害者が当該事故とは別の原因で死亡した場合について、次のように、将来介護費と後遺障害逸失利益では相反する判断をしていました。
(a)被害者が死亡した後の将来介護費用は認めない(※1)
(b)被害者が死亡しても、死亡時点を就労可能期間の終わりとしない(つまり死亡後の後遺障害逸失利益も認める)(※2)
※1:最高裁平成11年12月20日判決
※2:最高裁平成8年5月31日判決
同じく将来現実化する損害なのに、正反対の判断をしているのですから、法律の理屈としては整合しない面があります。
しかし、将来介護費は、介護を担当する家族の労力や職業ヘルパーへの支払いという「現実のコスト」を補てんするのに対し、後遺障害逸失利益は被害者本人を含めた「家族の生活保障」という側面があり、この生活保障面を重視して、被害者死亡後の逸失利益も補償したのだと理解できます。
そこで、本判例が、後遺障害逸失利益の定期金賠償について、被害者の死亡時を支払終期としなかったのも、同様の配慮によると推測されます。
実際、本判例における小池裁判官の捕捉意見では、被害者の死亡後にも後遺障害逸失利益の定期金賠償が継続することには違和感があると素直に認めつつ、被害者が死亡したときは、民訴法第117条を活用するべきとの提言がなされています。
前述したとおり、被害者にとって定期金賠償の最大のデメリットは、将来、保険会社が倒産して支払を受けることができなくなるリスクがあることでした。
本判例を含め、定期金賠償を命じた多くの裁判例において、支払義務を負うのが保険会社であって加害者など個人の場合よりも履行の確実性が高いことが考慮されていますが、100%確実であるとは言えません。
被害者保護の観点からは、何らかの制度整備が望まれるところです。
本件は、被害者である原告が定期金賠償を希望した事案なので被害者の意思に反するという問題は生じませんでした。
他方、原告が定期金賠償を望まず、一時金賠償を請求しているときに、裁判所が原告の意思に反して定期金賠償を命じることができるかどうかは問題があります。
民訴法第117条が制定される前の最高裁判例は、原告が望まないときには定期金賠償を命じることはできないとしていました(※)。
しかし、民訴法第117条が制定されたことで、この判例は変更されるべきものとする意見も強く、実際、将来介護費用につき、被害者が一時金賠償を請求しているのに反して、定期金賠償を命ずる判決が出された裁判例もあります(※)。
(※)東京高裁平成25年3月14日判決(判例タイムズ1392号203頁)
本判例では「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる」と判示されていますが、被害者が定期金賠償を求めていない場合については定期金賠償を認めない趣旨かどうかは不明であり、今後の判断が待たれるところです。